脳内ドラッググッドラック
※性描写を含みます。苦手な方はご注意願います。







愚かな怪物、己の尾を喰らい、飢えを凌ぐ。
すぐに腹が減り、足を、手を、胴を、頭を喰らい、消えてしまった。
愚かな怪物、消えてしまった。飢えも一緒に消えてしまった。





ルークは組み敷いた人を見下ろした。
何も纏ってはいないその体は、受けた刺激に反応していてしっとりと汗ばみ、常よりも赤く色付いていた。羞恥もあるのだろう。
その白い肌の下を流れるものなどもうないはずなのに、それは確かに薄めた血の色をしていた。そして血の暖かさを持っていた。

ゆるく刻まれた眉間の皺。潤んだ瞳。とろりとぼやけた視線。だらしなく開いた口。濡れた唇。ちらりと覗く舌。まさしく快楽に溺れるものの顔。だが、ルークはそこにそれだけではない色々なものを見出してしまう。
荒い息遣いはルークがその体に触れるたびに、声になった。意味をなさない嬌声に。しかし、ルークは違う声をも拾ってしまう。

ルークは見たくない、聞きたくない、と組み敷いた体を更に強く追い詰めてゆく。



ブラインドから差し込む灯りが室内を照らす。昼を少しばかり過ぎたばかりで、それだけで十分明るい。
そんな健全な明るさの中、そぐわないような音が室内に響いている。きらきらしい光の中、湿った空気が澱み渦巻いている。

荒い息遣いとぬめった水音、時折混じる言葉らしきもの。鼻に付く臭い。人工のものではない灯りは何も隠さず、全てを照らし出している。



唇を離すと唾液の糸が名残惜しげに架かり、そしてとろりとアナキンの肌の上に落ちた。荒く息を付く度に蠢く喉に落ちたそれはゆっくりと流れ出す。
ルークは彼の唾液に濡れた舌をそれに這わし、唇で柔らかく食む。喉から直接アナキンの嬌声がルークの口の中へと入っていった。肌を吸う。それはマークを付けるというより、彼の声を全て吸い取ろうとしているような行為だった。

喉から鎖骨へ。鎖骨から胸へ。ゆっくりと丹念に舌で辿りながら、時折強く吸い付き跡を残す。アナキンの体を舌で感じ覚えこむように執拗なほどに這わした。
乳首は舌だけでなく、指でも弄った。顔が二つあれば、両方に舌を這わせれるのに。ルークはそう思ったが、きっとそうなると片方の顔を自分は激しく妬むだろうと思い、やはり自分は一つで良いと思った。もう一つも自分自身だというのに。

行為の最中、時折見上げるとやはり快楽に歪んだアナキンの顔が見えた。ルークはずっとその顔を見ていたかったが、そこには見たくないものも含まれているので、見たいものだけ目に焼き付け再び、彼の体に視線を戻した。
下半身に視線をやると、彼の陰茎が陰毛の中からすっかりと反応した様子を見せている。
そっとそれに触れる。暖かく湿ったそれは握るとぬるぬるとしており、激しく脈打つ様子と相まってまるで手の中から逃れようとしているように思え、ルークは逃さないように指を絡めた。

乳首をぎゅっと摘み捻る。親指の爪で引っかき、押し潰す。陰茎も同じように嬲った。舌はもう片方の乳首を弄くった。歯で噛み、舌で押し潰し、唇で食む。
股の下の体が跳ね、荒い息と震えた声が大きくなってゆく。
それはとても耳に心地良く響いた。



ぐちゅぐちゅと粘りつく音を立てながら、ルークは自分の陰茎を扱いた。鈴口から滲み出した先走りの汁がそのぬめりで掌と指の動きを滑らかにし、卑猥な音で欲を増長させる。
空いた片手で乳首を弄くる。そこはルークにとって自分で弄ることでたいした快感を感じる場所ではなかったが、それでもルークはそこを摘み捻り押し潰し引っかいた。まるで誰かのそれをそうするように。

日の光の下、ルークは誰に隠すでもなく、全てを曝け出していた。



まるで舌っ足らずの甘ったれの声でルーク、と呼ぶ声はまともな言葉にならずに掠れた嬌声に掻き消えてゆく。いやだ、と、やめて、と、甘い誘いの言葉がうわ言のように繰り返された。
アナキンがルークを本気で拒絶することなどあるはずが無い。

散々乳首を弄っていた手をゆっくりと下に下ろしてゆく。綺麗に割れた腹筋を一つ一つその掌に包み指で辿ると、震える体と声に笑みが漏れる。敏感だね、と囁くと潤んだ瞳からほろほろと涙が零れ、違うと濡れた声で喘ぐ。嘘ばっかり、とルークは言い捨てて、臍に舌を入れた。舐める音と同時に掠れた喘ぎが響いた。



先走りに濡れた指を舐める。すっかり唾液と絡まりどろどろになった指を尻に這わす。割れた部分を濡れた指が這う感触は気持ち悪くて気持ち良い。快感と嫌悪が綯い交ぜになり、得体のしれないものが背を這い上がる。
割れ目を辿って着いた肛門は渇きしっかりと閉ざされていたが、ひくひくと蠢いていた。濡れた指で穴を突付き、襞をなぞるとさらに反応した。そうして外からと内からそこは綻んでゆくのだ。
ゆっくりと中指を入れる。そこは異物感と不快感があっても痛まないかった。
すっかり根本まで入った中指を中で掻き回す。円を描き、内壁を擦る。徐々に不快感などは消えていく、妙な感覚がそれに取って代わっていった。快感というには弱く、無視するには強いそれはじりじりと広がっていった。
すぐに一本では足らなくなって人差し指を入れる。入り口が少し狭かったが、入れてしまえば平気だった。二本に増えた指は、一本の時より複雑な動きをする。そうして何時の間にか三本の指が入り込み、好き勝手に蠢いていた。
片手で扱き続けている陰茎から滲み出し続ける汁が尻の方へ流れる。それが手を伝い指に絡まり入り口をさらに解していった。



しっかりと慣らした肛門の穴はたいした抵抗もなく、ルークの陰茎を受け入れる。それなのに中ではきゅっと締め付けてくるのだ。まるで自ら飲み込んでいくようだ、と言えば、アナキンは顔を真っ赤にし、力なく首をふった。
アナキンの中は暖かく濡れて脈打っており、ルークに自分が誰の中に押し入っているのかということを強く思い知らせた。それはアナキンにしても同じだった。
蠢く内壁と性器はどちらも体の剥き出しの部分だ。強くその人の生を示すものだ。酷く熱いのも、激しく脈打つのも、粘液がしつこいくらいに纏わり付くのも、それは中身を触れ合わしているからだった。
そしてだからこそ、ルークは自分達が全く別物なのだと思い知らさせた。
相手の熱を感じるのは熱源が違うからだ。脈動を感じるのは心臓が違うからだ。動きに粘液が纏わり付くのはそれが二つの別個のものだからだ。
相手を感じれば感じるほど、肉体は離れていく。ドロドロに溶け合えそうで溶け合えない。荒い息も喘ぎ声も、二人分あるはずなのに彼のものだけ耳は拾う。

何時の間にかルークの挿送に、アナキンは腰を振り合わせてきていた。その腕はルークの首に縋りつくように回されている。潤んだ瞳はだけれどしっかりと色を取り戻しルークを見詰めていた。
薄く開かれた唇がゆるりと動く。
ルーク、と。
誘われるようにルークは深く口付けた。



ルークは息を詰めて体を震わせた。ビクリと一度大きく跳ねた体は弛緩し、彼はベッドに体を投げ出した。そして大きく息を吐き出した。
陰茎から手を離す。掌は満遍なくべっとりと精液にまみれており、べとべとしたそれは不快だった。青臭いのも堪らなかった。
ゆっくりと肛門に入れていた三本の指を引き抜く。内臓がずるりと引きずり出されるような感覚が襲い、体が自然を震えた。指は自分の体液でぬるぬるとしていた。
生身の手も、機械の手も、自分の体液まみれだ。
そう。全部自分のものだった。彼のものなど何一つない。
ここには自分しかいない。彼はいない。
部屋を照らす光は、全てを隠さずに曝け出していた。

ルークはだるい体を起こし、シャワールームへと向かう。ついでに、窓だけ少し開け外気を取り込んだ。ブラインドは開けない。
本当に流し去りたいものは決して消えないのだけれども。

ゆっくりと口元が歪んだ。










FIN