生者と遺骸と魂魄と





Dooku & Qui-Gon



先ほどまで二人のジェダイと一人のシスが争っていたそこは荒れ果て、戦いの激しさを如実に物語っていた。
計器類がバチバチと火花を散らし、小さく破裂し、沈黙する。それの繰り返しだ。
既に勝者たる者は活路を求めて去り、ここにはもういない。生者は生きる為に足掻くだろう。そしてそれを成すだろう。
壊れたものだらけのそこは生きるものを拒む空間と成り果てていた。
故に生き物のように揺らめいている一つの青白い炎は、意志を持つが生きてはいない。

クワイ=ガン・ジンは自分の手の中に納まったものをじっと見つめていた。
崩壊して落ちゆく船の重力も、飛び交う残骸も彼にはなんら影響を与えることはない。クワイ=ガン・ジンは静かに立ちすくしているだけだ。

静かだ。クワイ=ガンはそう思った。たとえ周囲を騒音が取り巻いていても、彼は確かに静寂を感じていた。
それは彼が生者ではないからではなく、生きていたとしてもそう感じたであろう種の静けさであった。

クワイ=ガン・ジンはこの結末を識っていた。
現在という時間軸は生者のものであり、死者が触れることをあまり良しとはしない。特に識る者の介入は許されざるものだ。故にクワイ=ガン・ジンは何も出来なかった。最もそれを選んだのは彼自身であったので、彼はその思いが今更であると分かっている。

手の中に納まったそれは、クワイ=ガンの初めて見るものだった。
驚愕、憤怒、絶望、そして諦観を経て辿り着いたものは静寂だったのか。そのどれもを見出せるが故に、複雑なそれ。
しかしそこに反省や後悔の色を見出せないことに、クワイ=ガンは小さく微笑んだ。
そのようなものは似つかわしくないのだ、この人には。そして恐らく彼は全てを最後の最後で理解したのだろう。だからこそのその表情だと、クワイ=ガンは理解した。
手の中のそれは既にドゥークーではないが、かつてその人であったものの名残りである。

彼の胴体であった部分は重力に従い下方の部屋の残骸に埋まっている。転がる前に拾い上げた彼の首だけがクワイ=ガンの手の中にあった。
少し乱れた白銀の髪をゆっくりと撫で付ける。死者が骸相手に何をしているのか、とクワイ=ガンは思わず笑った。
そうして口を笑みに歪めたまま、そっと骸の頬に口付けを落とした。骸は何も言わず、何もせず、じっとそれを受け止めている。

何時の間にか周囲を赤い炎が包んでいた。
クワイ=ガンは手の中のものに再び口付けをし、それと共に一番激しく燃え盛っている赤い炎の中へと入っていった。
手の中で燃えるそれを、クワイ=ガンはじっと見つめていた。



死者が弔うなどと、なんと滑稽であることか。我らに相応しい。
崩れ落ちる骸がそう言った気がした。




*****





Anakin & Leia



颯爽と歩く美しい女性。気品があり、毅然として、そして気丈な娘。アナキン・スカイウォーカーは大切な大切な娘であるレイア・オーガナをそっと見つめた。
レイアはアナキンに気付くことはない。アナキンはそれを寂しくも有難く思っていた。
知れば見守ることも許されないだろう。彼女本人によってそれは拒絶され、自分にはそれに従う以外の選択肢はない。
それだけのことを自分は彼女にしてきたのだ。
許しなどいらないから、せめて見守らせて。それがアナキンのささやかな願いだった。

ルークやオビ=ワンなどは大丈夫だから彼女にも会うように勧めてくるが、それは彼にとってとんでもないことだった。アナキンは何時だって恐れている。失うことに臆病なのは全てを識った後でも変わることがなかった。
だからこそ、彼は彼なのである。

ゆっくりとレイア・オーガナが近付いてくる。自分へ向かっている訳では無いが、そうと錯覚してみたとて誰も彼を咎めはしないだろう。二人の事情を知っているのなら。
また彼らはそうなれば良いとも思っていた。彼らが微笑みながら歩みあえるようになれば良いのに、と。
しかしそれがどれだけ難しいことであるかも皆分かってはいた。だからこそ願わずにはいられないのだった。

レイアは白い簡素なデザインのドレスを纏い、隣に歩く男となにやら話し込んでいる。彼女の秘書として見知っている顔だ。一方的に、だが。
これから閣議でもあるのだろうか。アナキンは彼女を見守っているといっても、彼女のスケジュールを逐一チェックしている訳ではない。そこら辺の節度は今の彼ならば流石に持ち得ていた。

レイアのその真剣な表情は彼の妻、彼女の母の面影を色濃く示しており、アナキンはますます娘に対する愛しさを募らせた。
この手で抱き締められたら。微笑んで頬へ親愛のキスを貰えたら、与えられたら。凡そそれらの望みは年頃の娘と父親のふれあいではありえないものだが、アナキンにはそういうことはどうでも良いことだった。なぜなら、彼にとってそれらは幾ら思ったところで実現することなど無い夢物語なのだから。
お父様、と呼ばれたいなどと。本来なら思うことすらいけないことなのだ。

擦れ違う瞬間。
アナキン・スカイウォーカーはレイア・オーガナの頬にそっと唇を寄せた。

レイアは気付くはずもなく、男と話ながら目的の場所に向かって颯爽と歩む。その背を見ながらアナキンは彼女の歩む先が素晴らしいものであることをそっと願い、光に溶け消えた。



「レイア様?」
「風が・・・気のせいね、きっと」










FIN