そんな恋でも良いでしょう





結局のところ、恋の成就も愛の成熟も自分の為なんだから。
相手の為だなんて嘘だね、嘘。もう、綺麗事はいりません。
僕は自分の為に彼を手に入れ、そうして自分の為に彼に幸せだと言って欲しいんだ。





ルークが何かを言っている。早口でそんなに激しく喋るからよく分からないよ、ルーク。
違う、そうじゃない。彼は決して早口で捲くし立ててなんていやしない。ゆっくりとかみ締めるように、はっきりと喋っている。
ああ、だけど、ルーク。僕には聞こえないんだ。なんだろう、頭が全然働いてくれない。ああ、きっと今僕はひどい顔をしているに違いない。
でも、だって。そんなの理解出来る訳ないじゃないか。もう何を理解しようとしていたのかもよく分からないや。ああ、でも。やっぱり何も考えられない。

「だからね。何度でも言うよ。僕は父さんが好きなんだ。正直抱きたいとか、まあ、どうしてもっていうなら抱かれても良いよ。でも出来たら抱きたいんだけど。そんな好きなんだ。ねえ、父さん。ちゃんと聞いてよ。僕は父さんが好きなんだ」

ルークはすっかり呆然として意識をどこかに飛ばしてしまっているアナキンの肩をしっかりを掴みながら、何度も好きだと言った。
実の息子に、更に言うならばルークは生きてアナキンは死んでいる、そんな相手にいきなり愛の告白をされて誰だって驚かない訳がない。アナキンの反応は正しい。おかしいのはルークの方であってアナキンはこれっぽっちもおかしくなんてなかった。だけどどうしたことだろうか。内容さえ聞かなければ、おかしいのはアナキンで、おかしくないのはルークだった。態度というものは本当に大切なものだ。真実がたやすく逆転するのだから。見ているにも関わらず。違う。見ているからこそ、だ。

「愛してる」

アナキンを現実に引き戻したのは皮肉にもその言葉だった。
愛している?誰を?誰が?冗談じゃない。
抱きしめる腕をゆっくりと引きはがす。思ったよりあっさりと離れる腕を掴んだまま、じっと見つめる瞳を見つめ返す。真剣な瞳。熱を孕む瞳。ああ、この子は本気なのだ、とアナキンは理解し、そしてその事実を受け入れた。

「ルーク。冗談は止めなさい」

だからこそ、当然のように声がひどく冷たくなった。ああ、きっと。この瞳に浮かぶ光も冷たいのだろう。軽蔑も嫌悪もない。あるのは間違いなく愛情だ。だけど、きっと、冷たい目をしている。

「冗談なんかじゃないよ」
「いいや。冗談じゃなきゃ何だ?だったらなにかの間違いだ、勘違いだ」
「分かってるくせに」
「・・・分かっているからって何だ?お前は何も分かっちゃいないんだ。お前のそれは間違いだ。忘れなさい」
「嫌だね。僕は貴方が好きだ。愛してる。抱きたい。抱かれたって良い」
「お前は自分が何を言っているのか分かっているのか?」
「当たり前だよ」
「・・・僕とお前は親子だ。僕は死んでいる。お前は生きている。それが事実だ。お前のその思いは無駄だよ、ルーク。許されない」

掴んでいた腕を放す。強く掴みすぎていたのか、少し赤くなっているのが見えた。普段のアナキンなら即座に謝って労わっただろうが、今の彼はそんなことをする気にはなれなかったので放っておいた。
それよりも。
ゆっくりと赤くなった手首を愛おしげにさするルークの微かに浮かんでいる笑みに気を取られた。
ああ、どうすれば。この息子の気持ちを変えられるのだろうか。彼の欲情だけを取り除きたいなどと。それは都合良すぎることなのだろうか。だけど。だけどそれが正しいことなのではないのだろうか。自分は親として、今度こそ間違いないように彼を愛したいのだ。子が親をそういう意味で愛するだなんて、そんなことどう考えたって駄目なことに決まっている。

「別に許してなんて欲しくないね」
「駄目だ。僕は絶対に応えないよ」
「嘘だね。うんん。いや、良いよ、それで。今はね。僕はずっと言い続けるし、行動に移すよ。貴方が嫌がったって止めないから、止めろと言われても止まらないから」
「僕の意思は?」
「関係無いよ。貴方の言う貴方の幸せも関係無い。僕が愛して幸せにするから。僕の為にね」
「・・・ッ!」
「綺麗事なんて言わないよ。どうしようもないくらいに貴方が好きなんだ。貴方の気持ちなんて考えれないくらいに」
「ルーク!いい加減にっ!」
「愛してるよ、父さん。もう分かっているんだ。これがどんなにおかしいことだなんて。だけどもうどうしようもないことも分かってるんだ。分かってよ」
「駄目だ!こればっかりは、駄目だ。ルーク、お前までそんな風なるな。お前は僕と違うから、お願いだから・・・」
「そのお願いは聞けないよ、父さん。・・・だけど、今は一人にしてあげる」





精々悩んで悩みまくって、やっぱりひとつの答えしかないことに早く気が付いてよ。

去り際に唇への触れるだけのキスと共に残されたひどい言葉が、頭にこびりついて離れない。気が付けば、何度も何度も繰り返される。初めて聞いた甘い声が幾度もリピートされる。
彼は知っている。息子は分かっているのだ、全部。全てを知ってあんなことを言う。

綺麗事なんて言わないよ。僕の為に。貴方の幸せは関係無い。

そうしろと?だから自分もそうしろと、彼は言っているのだ。

あの手を掴んでも、良いのだろうか。
掴んで引きずり降ろしてもう逃げられないように捕まえて、それでも彼は笑うのだろうか。愛していると。
なんて自分勝手で我侭すぎる。



間違いなく、これは息子への恋、だ。
誰もが否定すべき愛、だ。









FIN