SLEEP WALKER

ヘテロセクシャル(♂♀)の事後シーンを含みます。カップリングはA/P、H/Lです。





Anakin/Padme


私はふと、目を覚ました。
室内は暗闇ではなく、消えることの無い都市の灯りが薄い紗を越えて射し込める。それは眠りを遮るものでは無い。この覚醒の要因にはならない。

情事の後で体がだるい。ゆっくりと上半身を起こし、少し乱れた髪を掻き上げ、薄ぼんやりをした闇と光を見た。手元に時間を示すものは無いので、正確な時間は分からないが、恐らくもう少しで夜が明ける頃なのだろう。そんな時刻であっても、休まることを知らない都市。

行儀悪く立てた膝に顔を置き、そうやって紗とガラスに遮られた外を見ていると、微かな布ずれの音がした。
視線をそちらにやると、背を向けていたアナキンが寝返りを打ち、こちらの方を向いていた。
彼が起きてはいないことに、私は安堵した。
それは彼の眠りを妨げてしまわずに済んだ、という意味ではなく、彼の寝顔を眺めることがまだ出来るという意味での安堵なのかもしれない。
だってそれはあまり見れるものではないのだから。

薄明かりに浮かぶその姿に私は穏やかな気持ちになった。
閉じられた瞼。縁取る睫が微かに震えている。薄く開いた口。少し垂れた眉。額や頬にかかる乱れた髪。消えた眉間の皺。安らかに眠っているのであろう、その顔。今宵の悪夢は訪れてはいないようだ。
初めて会ったあの頃より大きく成長した姿だが、妙にあの頃とだぶるのは、目を閉じているからだろうか。寝顔は人を幼くさせるから。
もしそうならば、眠る私はアナキンの目にあの頃の少女が映っているのだろうか。

知らず、笑みが零れる。
見る者がいたならば、まるで愛しい子供を抱き微笑む聖母の様だ、と賞賛したであろうそれは、誰にも見れない故に、聖母たり得る。
なぜなら、人が、知的生物が見たならば、そこに紛うこと無き彼女の彼への危うい愛情を感じるだろう。聖母は夜叉でもある。

今日は悪夢を見ていないのだろうか。
私は知っている。彼が時折魘されているのを。知っていて黙っている。
今日はまだ見ていないのか、それとも今日は見ないのだろうか。
後者だと良い。私は密やかに願った。

私はしばらく、彼の寝顔を見つめていた。飽きることなどあるのだろうか。
ずっと見ているのも良いが、触れたいという欲求がゆっくりと湧いてくる。そう。彼がすぐそこにいる。手の届く距離に、確かにいるのだ。
私は素直にその欲求に従った。何も憚るのもはない。私と彼は夫婦なのだから。

起きないように、柔らかく手を伸ばした。
手に触れる彼の頬。すっかり成人した男のそれは、固く筋張っていて、仕事柄か、年の割には肌理が粗くがさついている。
それでもなんとこの手にしっくりと馴染むことか。柔らかい傷一つないこの手に。
頬から少し指を伸ばし目元の傷に触れる。流石に起きるか、と思ったのだけど、止めることが出来なかった。
私は行為の最中に彼の体中の傷に触れることが好きだった。指で、唇で、触れる。それらは私には全くと言っていいほど無縁ものだ。私の体には傷一つ無い。
それはいつか私から彼を奪うかもしれない。しかし今あるものは、そうでは無い。これらは彼を奪いはしない。戦場が彼を私の元に返してくれた証でもある。
そう思うと酷く愛しいのだ。

目元の傷に触れ、小さな溜息が漏れた。
アニー。私のアニー。
愛している。愛しているわ。
傷から指をそっと離す。そしてそのまま唇に触れる。
柔らかく少しの湿り気を帯びた、荒れた唇。ここもまた、手入れの行き届いた私の唇とは違う。
しかし私は知っている。彼とする口付けの素晴らしさを。触れるだけでも甘い。
彼の体がピクリと震える。むずがるように体を動かしたが、起きることは無かった。
ジェダイがこれで良いのかしら、と思わないでもないが、これはきっと私や彼――同列であることに嫉妬しないでもないが、既にパドメは半分ばかり諦めている――だからこそのものだと、思えば誇らしい。
これは彼の愛。彼の甘え。

パドメはゆっくりとアナキンの寝顔に顔を近づけた。
そして寝息の零れる唇を、自分の唇でそっと塞ぐ。数秒、触れるだけの口付け。
アニー。
おやすみなさい。
パドメはアナキンの額にもう一つ口付けを送り、ゆっくりと横になった。そしてアナキンを抱き締めた。
アニー。私のアナキン。

気が付けば、逞しい腕が私の腰を抱き、しっかりと私達は抱き合っていた。
彼が起きているのか、いまだ寝ているのかは分からない。
もうそれはどうでも良いことだと思った。ゆっくりと瞼を閉じる。

おやすみなさい、アニー。
素敵な夢を貴方に。





*****





Han/Leia


ふと、目が覚めた。
室内は暗く、夜目が利く自分ですら、周囲を把握するのに少しの時間を必要とした。
じっと目を凝らす。ゆっくりと、人影が浮かび上がる。

自分の腕の中にシーツに包まれて眠る、恋人。
向けられた背の滑らかな曲線。黒く長い艶やかな、だけれども少し痛んだ髪が、彩る。箱入りでは無いことを示す、しなやかな筋肉と、それを包む肌理細かく滑らかでありながら強い肌。
彼女――レイアは精神の強さも肉体の強さも持ちえる女性だ。
高い身分を持ちながら、彼女は野に出て戦った。姫と呼ばれ、政治家でもありながら、戦闘に参加した女傑。
彼女に女のくせに、という言葉は似合わない。言えば、男のくせに、と即座に返ってくるだろう、何十倍にもなって。

なんて女に惚れてしまったのだろう。
ハンは苦く笑った。
後悔では無い。所詮、惚れてしまった方が負けなのだ。自分には初めから勝機などなかった。

ん…。
レイアがハンの腕の中で、少し身じろいだ。腕から逃げる訳ではない。むしろ、その体温を確認するかのような仕草に愛しさが増す。

目の前で浮き出た肩甲骨が艶かしく動く。
それは自分を誘っているようで、ハンは腰に回していた手で、浮き出た骨に触れた。
それは滑らかで硬く、ハンの掌にすっぽりと収まった。しばらく、その感触を楽しむ。

深い眠りに入っているのか、レイアは目覚めない。久しぶりに会ったからと言ってやり過ぎたかもしれないが、それは何もハンだけのせいでは無い。激しく求めたのはどちらも同じなのだから。

触れていると、欲望が増してくるのをハンは感じた。
俺も若いな、と一人ごち、触れるのを止め、代わりに口付けを落とす。
突き出た骨の頂に一つ触れ、そのまま窪みに添って唇でなぞる。渇いた感触だけを与えてゆく。
ヒクリ、とレイアの体は小さく震えるのを、触れた唇で感じた。
次は舌で、そして掌で少し上にある乳房の感触を楽しもうと、ハンが行動をエスカレートさせようとした時、声が聞こえた。小さな、吐息のような声が。

父、さま――と。

正直、ハンはレイアが起きていることを疑った。
しかし規則正しく紡がれる鼓動と呼吸は、正に寝ている人のそれで―ハンはそういうことには人一倍鋭い―嘘寝では無い、ということはすぐに知れた。

彼女は強い。肉体的にも精神的にも。ハンは十分知っている。
だが、そんな彼女にもどうしようもないことがあることもまた、ハンは知っていた。
彼女の強くしなやかな心の芯を揺さぶる、それ。
それが自分では無いことに嫉妬してはいるが、ハン自身もまた、その存在に揺さぶられているので彼女の気持ちが痛いほど分かってしまい、無理には何も出来なかった。
関わった者達で、彼に影響されていない者などいるのだろうか。
彼女の寝言が、一体どちらの存在に向けられたものなのか、ハンには分からないが、そのトーンから察しを付けることは出来る。あくまでハンの想像でしかないのだが。
しかし確実なことがある。
その一言は、ハンからあっさりと欲情を奪った、ということだ。

ハンは小さく溜息を付いた。だかどこか清々しい。
まだ引き返せる内で良かったぜ、と軽口を叩けるくらいには、彼は大人だった。

寝ている横顔を見る。意外と穏やかなその顔に、ハンはそれを好ましく思うよりも、切なさが勝るのを感じた。
一体どんな夢を見ているのだろうか。彼女の言う父がアレの方なのであれば、それは正しく夢だ。穏やかさが切なさを増長させる。
ハンは首を振った。

レイア。レイア。
愛している、愛している。

ゆっくりと乱れた黒髪に口付けを落とす。頬にも軽く一つ。
乳房を掴もうとしていた手を再び緩やかに腰にまわし、レイアを抱き締めた。

レイア。俺のレイア。
愛している。

ハンはレイアを抱き締めながら、ゆっくりと瞼を閉じた。
今は、眠ろう。
これは誰も知らなくていいことだ。

レイア、おやすみ。
良い夢を君に。










FIN