Fの受難
スタースクリーム/ブラックアウト→ブラックアウト/スタースクリームでリバです。ご注意ください。





それをフレンジーは呆れた様子で見ていた。こういうものはひとりで見たって面白くない。誰かと見るからこそ楽しいものだ。
大型のディセプティコンふたりが、ネメシス号のブリッジの床で五月蝿い音を立てて取っ組み合っているだなんて、オートボッツに是非見せてやりたいものだ。きっとあの小柄な――フレンジーよりは大きいが――ジャズやバンブルビーには大いに受けるだろう。今度の戦闘の時にこの映像を送信してやれば隙が生まれるかもしれない。
まあ、やらないが。こんな様子は誇り高きディセプティコンズの恥だ。隠せるのなら隠し通したい。それによしんば勝利したとて、その後のことを考えるととてもそれが良い作戦だとは思えない。確実に殺される。怒り狂ったふたりにスパークは儚く掻き消されるだろう。だからフレンジーは実行には移さない。ただ、論理回路の遊びに止めておく。

それにしてもだ。ワームホール航海中で外へ出られないからといって、こんなところでこいつらは一体何をやっているんだろうと思う。彼ら自身がどうなろうと知ったことではないが、問題はネメシス号のメインシステムになにかしらの損傷を及ぼされることだ。彼らに関しては勝手に壊しあってくれて構わないと思っている。むしろ、当分機能停止状態に陥ってくれていた方が良いかもしれない。
相棒はオートボッツとの戦いに彼らは必要だと言うが、果たしてそうだろうか、とフレンジーは思うのだ。彼らがいなくともなんとかなるのではないのか。連中は滅多に先制をかけてこないのだから、こちらが抑えれば戦闘は避けられる。
そんなことを以前、フレンジーは相棒であるバリケードに言ったことがあった。彼は言葉を少し濁し、それではつまらないと答えた。
何が、とは聞かなかった。きっと聞いてもまともには答えないだろう。フレンジーは戦闘狂の彼のこと、まあそうなってしまうと戦えなくなるからつまらないのだと思うことにした。他の可能性についてはまた暇な時に考察することにした。対象が三人なのでそれなりにからかい甲斐もあるだろう。
そういう訳でフレンジーは視覚センサーの一部で彼らの動きを捉えながら、その映像を記憶していた。

フレンジーをそんな気分にさせているのは、スタースクリームとブラックアウトだ。
彼らはとにかく仲が悪い。ディセプティコンズに仲が良いもくそも無いのだが、この二人は格別だった。
仲が悪いのなら出来るだけ顔を合わさないようにすれば良いのに、避けたら負けだとか思っているのか、なにかと同じ場所に居たりする。シフトを調節して二人が同じ期間に見張りにならないようにしているのに、わざわざ起きてきて喧嘩を吹っかけたりする始末だ。今回もそうだ。
ただし、本当にふたりしかいない時は喧嘩にもならない。ただ静かで険悪な雰囲気が空間を支配し、時間が過ぎるだけだ。
構って欲しいだけだ、と言うのは彼らに関して良く貧乏くじを引くバリケードだった。ふたりっきりだと話も出来ないだなんて可愛いものじゃないか、と嫌な笑いを浮かべていた。なるほど、時折バリケードがシフトを代えてふたりを一緒にしているのはささやかなお仕置きだったらしい。下手に暴力で訴えるより効果がありそうだと、その時フレンジーは思った。

特に意味も無いようなことを考えながら、面白くもない映画を惰性で見続けている気分でふたりを見ていたフレンジーだが、そろそろ聴覚センサーを閉じたくなってきた。
見ているだけならばまだ良い。でかい図体をしたふたりがもぞもぞと変な動きをしているだけだの話だ。ある意味ひどく滑稽な動きなので、見ていてそれなりに面白いと言えるだろう。
しかし、やはり音は駄目だ。先ほどまでの殴ったり蹴ったりして出る金属の衝突音が徐々に小さくなり、変な声が混じり出してきた。フレンジーが何度聞いても気持ち悪いとしか評することが出来ない声だ。気持ち悪いというか気味が悪いというか、実に気色悪い声は、フレンジーの感覚中枢を逆撫でし悪酔いさせてくる。

今回ももう耐えられない、とフレンジーはセンサーが捉えた結果を論理回路に送らずに、直接記憶回路に送るように切り替えた。何も聴こえなくなるが、他のセンサーの感度を上げておけば大丈夫だろう。
なんだかんだとぎりぎりまで切り替えないのは、フレンジーが意地っ張りなだけで他意はなかった。一種の度胸試しのようなものだ。

フレンジーにとって無音の空間で、ブラックアウトがもがき抵抗しながらもスタースクリームに組み伏せられていた。
多分、盛大に相手を罵っていることだろう。抑えきれない声を交えながら。想像してフレンジーは後悔した。折角聴こえないようにしたのに、これでは意味がない。
あまり詳細に見たくはないので、大まかな部分だけをセンサーに繋げておく。後の詳細な部分は記憶だけしておいて問題さえおきなければ消去だ。いや、彼に送信しておくのを忘れてはならない。うんざりしながらも受け取るだろう。その後のことは知らない。フレンジーにとってそのデータを彼に渡すことに意義があるので、その後はどうでも良いのだ。
ブラックアウトの巨体が揺れる。上に乗って好き勝手しているスタースクリームのあの恍惚とした様子はどうだ。こちらの方にまで狂ったパルスが飛んできそうだ。そんな気色悪いものを撒き散らかさないで欲しい。なんとなくフレンジーはフォースバリアーを周囲に張った。

その時だ。形勢が逆転した。一瞬の出来事だった。
今度はブラックアウトがスタースクリームの上に乗った。体型だけならブラックアウトの方が良い。流石のスタースクリームもマウントポジションを取られてはその下でじたばたともがくだけだ。とりあえず、室内での喧嘩で武器システムを作動させる愚行を犯さない理性は残っているらしい。いや。快楽の余韻に上手く感覚中枢が働いていないだけなのかもしれない。先ほどのはどうみても、スタースクリームだけが好き勝手にし、達していた。そこをブラックアウトは突いたのだろう。今度は逆にブラックアウトがスタースクリームの回路を支配している。組み敷かれた身体が震えているのが、フレンジーからも見えた。

別に珍しいことではなかった。時折彼らはこうやって室内で喧嘩し、そのまま行為に突入し、さらに仕掛けたスタースクリームが形勢を逆転される。何度やっても懲りないし、変わらない。
わざとなのかそうでないのかは、フレンジーにとってどうでも良いことだ。これを見る度にただ彼らが馬鹿だという認識を強めるだけだった。
まああまり実害が出ない分、こちらの方がマシかもしれない。外でやり合うと当然のことながら損傷が激しくなる。
いつもこうやってやりあっていれば良いのに。損傷はない。リペアする手間も省ける。ただひとつの難点は、やはり精神回路にかかる負担だろう。
そこまで考えてフレンジーは思った。やはりどちらにしても迷惑な連中だと。

その後、何度か形勢の逆転が続いた。続けているのは意地だろう。本当に愚かしい意地もあったものだ。
フレンジーはため息を付いた。正直、もういい加減飽きてきた。今ならやばいウィルスを仕込んでやれそうだ、とフレンジーが危険な考えをし出した頃、タイミングを計ったかのようにふたりの反応がぐっと小さくなった。見るとふたりしてぐったりと倒れこんでいる。
どうやらふたりしてダウンしたようだった。反応が休眠状態を示すものになっている。ますますフレンジーは呆れた。しかしこれで静かになったと喜ぶことも忘れない。
中枢と聴覚センサーを繋げた。音が戻っていた。五月蝿い声は聞こえない。
さて、どうしようか。フレンジーは少し考え、今までの出来事のメモリーをバリケードに送信した。休眠しているだろうが、とりあえずは受け取るだろう。見るか見ないか、来るか来ないか。賭ける相手も居ないのでどうでも良いかとフレンジーは専用のコンソールに向き合い、趣味と実益を兼ねた研究を進めるべく、それに集中し出した。
床には二体の大柄なディセプティコンが重なり合って倒れているが、もうフレンジーの興味には無かった。

千回目の記念にはとびきりのウィルスを仕込ませてもらうことにしよう。





FIN