嘘吐きと野心家
バリ/スタ→スタ/バリで描写有りのリバです。ご注意ください。




本当に愚かなヤツだ。バリケードは思った。音声に乗せることも、態度に出すこともなかった。ただ、ほんの少しだけ彼にわかるように呆れてみせた。
「今回のことはお前の失態だぞ、スタースクリーム」
彼は確かに重要な部分を損傷していたが、致命的なものではなかった。あの状況であの判断は誰が見ても間違いだ。
あそこで感情的にならず自己保身にも走らず、オプティマス・プライムを葬っておけば、スタースクリームは自身の野望へ大きく近づいただろうに。彼は目先の保身と怒りを取って、ディセプティコンズでの立場を更に微妙なものにしてしまった。
メガトロンが居た頃はここまで愚かな男ではなかったはずだ。もっと姑息で周到、そして聡明な男だった。彼は自分こそがもっともメガトロンの影に囚われていることに気付いていない。
バリケードは寝台に横になっているスタースクリームを見た。彼はただむすっと黙って自身の修復に意識を向けていた。

ふたりが居るところはスタースクリームの私室だ。バリケードがスタースクリームを半ば引きずるように連れてきた。
他のメンバーはきっとまだブリッジに居るはずだ。損傷の激しいブラックアウト達もだ。仮の首領であるスタースクリームに対する不満や憤慨でブリッジは今頃嫌な熱気に包まれていることだろう。



オートボッツとの戦闘を中断させてネメシス号に戻ったの有様は酷いものだった。スタースクリームへの糾弾は当然のものだ。バリケードもあの撤退は納得していなかった。
しかし、皆あまりにも冷静さを失っていた。それぞれにスタースクリームを責め立て、今にも彼を攻撃しスパークを掻き消さん勢いだった。例によって一番激昂しているのはブラックアウトだった。
スタースクリームもまた、それを黙って受け入れるような男ではなく、当然のことながら他のメンバーを大声で罵り返し、周囲に怒りを撒き散らかしていた。
双方共に、武器システムを作動させたのを見て、バリケードは動いた。とりあえず言って聞くような連中ではないので、狙いを定めて粒子ビームを発射する。最小限に力を抑えられたそれはスタースクリームとブラックアウトの額に当たり、軽い火花を辺りに散らした。ふたりが同時にこちらを向く。お互いへと向けていた砲口がバリケードへと向けられた。
「「貴様っ!」」
ふたり同時に口を開く。気の合うことだと嘲笑って本格的に攻撃してやろうか、とバリケードは一瞬考えた。今のふたりなら上手くいけばぶち壊せるかもしれない。それはなかなか甘美な誘惑だったが、バリケードはなんとか抑えることに成功した。
「お前たちはここをどこだと思っているんだ?自滅するつもりか」
「「しかしこいつがっ!」」
また同時だ。思わず笑いそうになるのを堪える。今だバリケード自身完全に怒りは収まっていないが、そろそろどうでもよくなってきた。
他のメンバーもスタースクリームとブラックアウトのやり取りを見て少しは落ち着いただろう。彼らも今だスタースクリームへ向けた砲口は降ろしていないが、すぐに撃つ気は失せたようだった。
「どちらでも良い。とりあえず少しは落ち着け。損傷部分を修復しろ。話はそれからだ」
スタースクリームが武器を収めた。
「そいつを庇うつもりか、バリケードッ!」
ブラックアウトが尚も言い募る。その怒りは最もだ、と思いながらバリケードはスタースクリームの隣に立った。腕を引き、ブリッジの出口へ向かう。
「バリケードッ!」
ボーンクラッシャーが呼ぶ。
「ブラックアウトとスコルポノックの修復を手伝ってやれ。デバステーターはフレンジーを見てやってくれ」
「お前は?」
「俺はこいつの修復を手伝う。ここでは出来そうにないからな。とりあえずは傷を癒してからだ。・・・重要な情報をみすみす見逃すことはないだろうが」
そう言い残し、バリケードはスタースクリームを引っ張りながらブリッジを出た。



「スタースクリーム。あのエイリアン船に乗っていた連中はメガトロン様の情報を持っていた。間違いないな?」
静かに訊ねた。答えはなかった。間違いないな、とバリケードは確信した。
「何故隠していたとは聞かんがな」
やはりスタースクリームは何も言わなかった。ため息を付き、すぐ傍まで近づく。スタースクリームはちらりとバリケードを見、すぐに顔を逸らした。
「諦めるんだな、スタースクリーム」
損傷部分を見る。修復速度はやはり早い。スタースクリームはその戦闘能力の高さも然る事ながら、治癒能力も高かった。彼の欠点はまず間違いなくメガトロンを意識しすぎていることだ。それさえなければ、あるいは。

バリケードはスタースクリームの上に乗った。巨体を跨ぐ。スタースクリームは怪訝な顔をした。
「修復を手伝ってやるよ。さっさと直して自分で解決するんだな」
トントンと指で胸の装甲を叩く。開けという合図だった。
「いらん。余計なことをするな。さっさと上からどけ」
やっと喋った。不機嫌な声だが、バリケードには拗ねているようにしか聞こえなかった。
「オートボッツに先を越されても良いのか?復讐は良いのか?」
あの時のスタースクリームの激昂具合からして、オートボッツと、特にあのエイリアン共を彼は許さないだろう。例え彼らの星にメガトロンが居たとしても、スタースクリームは復讐を取るのではないか、とバリケードは考えていた。
その考えを確信に変える為にバリケードは煽るように囁いた。悔しくないのか、と。

スタースクリームはしばし唸り、観念したかのように胸部を開いた。
バリケードはその中からひとつの受容器を探り出し、そこへ自身の出力装置の端末を繋げた。治癒を促進する為に精度を高めたエネルギーを送ってやる。

びくりと跨いだ身体が小さく跳ねた。治癒の為とはいえ、他人のものが入ってくるのだ。違和感と異物感は感じざる得まい。
プライドの高いスタースクリームのことだ。さぞかし屈辱だろうと、バリケードは彼を見下ろし思った。そしてもう少し苛めてやっても良いだろうと考えた。

表情に出さずバリケードは笑い、そうしてある種の信号をこっそりとエネルギーに混ぜた。ゆっくりとそれはスタースクリームの中を巡り蓄積されていくだろう。
しばらくするとスタースクリームが異変に気付いたようだ。ぎろりとバリケードを睨みつける。
「バリケードッ・・・やめろっ!」
「遠慮しなくても良いぞ、スタースクリーム。痛いより気持ち良い方が良いだろう?」
バリケードはくつくつと笑い、信号を強めた。スタースクリームの身体が面白いようにびくびくと跳ね、罵声に喘ぎが混じる。
「きさ、まっ。後で・・・あっ、くそっ!覚えて、おけよっ!あうッ」
「ああ、そうだな。お前がちゃんと質問に答えたら覚えておいてやるよ。スタースクリーム。あいつらはメガトロン様を知っていたな?」
確信していたが、あえてバリケードはそれを聞いた。その口から言わせたかった。
「うっ・・・分かって、いるん、だろうがっ!」
「さあな?」
バリケードはさらりと嘯き、流し込んだ信号で絡め取ったスタースクリームの感覚中枢を更に刺激した。嬌声があがる。
「やめっ・・・ろっ!」
「俺はお前の口から聞きたいんだよ。やっぱりちゃんと確認はしておかないとな」
震える身体を見下ろし笑う。屈辱と快楽に歪んだ瞳で睨みつけられるのが実に心地良い。ぞくぞくとした快感がバリケードの回路を巡った。
「なあ?スタースクリーム」
「アッアッ・・・そう、だ。メガ、トロンは・・ンッ!連中の、星にっ!」
「本当に?」
「あうっ・・・くそっ!」
喘ぎ罵りながらスタースクリームがあるデータをバリケードに送信してきた。繋がった部分から送られてきたそれは、快感と共にスタースクリームがエイリアン船から引き出した情報を伝えてきた。
「なるほどな」
バリケードは満足したように笑い、信号を緩めた。
スタースクリームが荒い息を吐きながら、悪態を付く。気が付けば治癒はほぼ完了していた。再度スタースクリームがバリケードを睨みつけ、そして小柄な彼の肩を掴んだ。バリケードは慌てることもなく笑っていた。その余裕が腹立たしい。大人しくやられてたまるかとばかりにスタースクリームは繋がった部分から、バリケードの信号を押し返し進入を開始した。自分に跨る身体が跳ねる。
「なんだ。元気なもんだな」
「黙れ」
にやにやと笑うバリケードを黙らせるべく、スタースクリームは信号を強めた。震える身体を固定させ、責め立てる。上がる喘ぎに気分は幾分和らいできた。

面倒なことになりそうだ。少し落ち着いた思考回路でこれからのことを考えると嫌な気分になる。しかし今だけは忘れておこう、とスタースクリームは思い、行為に集中し出した。

現金なやつだ。バリケードは快楽に支配された回路でぼんやりと思った。だが、こうでなければスタースクリームはスタースクリームではないと笑った。





FIN