それはまるで睦言のような
バリケードは隣でスリープモードに入ってしまったスタースクリームを見た。
普段の警戒心はどこへいったものか。常ならこんなことは無い。彼は行為の後、バリケードがスリープモードに入るか、部屋を去るまで必ずといっていいほど意識を保っている。
それなのに今はどうだ。実に無防備な面をバリケードに晒しているではないか。
本人も知らぬ間に相当の疲れを溜めていたのだろう、とバリケードは推測した。彼らのような無機物で構成された生命体であってもストレスを感じない訳ではない。思考する中枢回路を持つ彼らは、無機生命体でありながらどこか有機生物的なところが多い。
馬鹿なヤツだ。バリケードは思った。スタースクリームのそれはひどい悪循環になっている。いや、最早原動力と言って良いかもしれない。強いストレスを感じることによって彼は突き動かされる。そしてまたそれにストレスを感じるのだ。その繰り返しだ。
そしてそれに気付いていながら何もしない自分も馬鹿だろう。バリケードのストレスの多くは間違いなくスタースクリームが作り出している。言っても聞かないので改善するのを諦めた、というのは建前でしかない。
分かりやすい悪循環は一度嵌ってしまうとなかなか抜け出せない。特にこんな閉鎖した世界では尚更だ。
バリケードは身体を起こした。
行為の後はどうしても動きが鈍くなる。スタースクリームとの体格差は大きく、負担はもうどうしようもない。
また彼は意外にも上手い。いや、上手いとはのは少し違うかもしれない。相手を全く気遣わない彼との行為は、手加減がない分感じる快楽が双方ともにとても強い。受け止め方を誤るとすぐに吹っ飛んでしまうが、それだけに上手くやると強烈な快楽を得られた。
その後の疲労感と倦怠感もまた半端では無かったが、バリケードは彼との行為は嫌いではなかった。一歩踏み込めばお互いに相手を壊しかねない行為はどこか戦うことに似ていて、好い。
バリケードは腕を伸ばした。動くのがだるい。このままここでスリープモードに入ってしまいたい欲求に駆られたが、抗う。そういう気分ではない。
指先が胸の装甲に触れてもスタースクリームは起きなかった。キィッと軽く引掻く。細い傷が付き、そしてすぐに消えた。
やはりスタースクリームは起きず、バリケードは小さく笑った。
「スタースクリーム」
返事は無い。バリケードは小さな音声で呟いた。
「あの方が生きておられるのを真実望んでいるのはお前だろう、スタースクリーム。その手で倒さないと不安で仕方が無いんだろう?影は恐ろしいものだな」
またひとつ、小さな傷を作る。先ほどより長く描いたそれは端から消えてゆく。
「なあ、スタースクリーム。メガトロン様とオールスパークを見付けて、オートボッツを滅ぼして、そうしてメガトロン様の統治する世がきて。その時、お前はまだあの方に代わりたいと願うか?・・・願うのだろうな、お前は。その時こそは・・・」
バリケードは小さくため息を付いた。スタースクリームから離れ、寝台を降りる。この寝台はバリケードには広い。
音を立てずに床に着地し、バリケードは扉に向かった。やはり身体はだるく少し軋む。
扉を開け、廊下に出た。背後で扉が閉まる。完全に中が見えなくなってバリケードは歩き出した。
音声に乗せずに呟く。
「その時こそは、お前の隣に居てやっても良い」
今はそう思うのだ。実際、その時に自分が何を考えているのかは分からない。バリケードは不変など信じていない。全ては移り変わるものだ。物理に不変はない。だからこそ彼の言動は虚実入り乱れている。変わらないことを真実というのなら、変わることは嘘だということだ。
しかしスタースクリームを見ていると、少しだけ信じてみたくもなる。あの何時まで経っても変わることのないメガトロンへのコンプレックスを見ていると、変わらない感情というものもあるのかもしれない、と。
疲れている。だから変なことを口走ってしまった。バリケードは自らを小さく嘲笑った。
自室までの道のりが長く感じた。早く休みたい、そうバリケードは強く思った。
FIN