影に融ける

※注意
宇宙探索中に同じ惑星に斥候として降りた二人が原住民?相手に共闘した後の話です。
たまにはジャズも斥候して出てたら良い。
さらに地球到着前のくせに外見はポンティアック・ソルスティスとフォードサリーンマスタングポリスクルーザーです。
趣味で銀と黒です。ロボットモードも地球のアレです。
もはや二人とも別人です。妙にラブいです。今更ですか。
ありえないなんてありえない。夢を見ても良いじゃないですか。
それでもよろしければ、どうぞ。










沈みかけた太陽が周囲を赤く染めあげる。三つの輝く恒星はいまや一つだけを残し、地平の彼方へと消えた。その残る一つもすぐに消えるだろう。
赤が深みを帯び、空は青から藍へ、藍から紺へと闇を濃くしていった。

日が沈んだ時間は攻撃を行わないのか、周囲はすっかりと静かになった。索敵センサーの反応は警戒レベルに達するものではなかった。彼らは日の入りと共に活動を停止するタイプの生命体らしい。
いや。そうでなくとも、彼らはもう激しく戦いを挑んではこないだろう。彼らに少しでも知能があれば、周囲に散らばる夥しい数の同胞の死体を見て、挑むことは無謀だと知るだろう。知能が高ければ諦めないかもしれないが、見たところ大した頭脳を持っているとは思えない生命体だった。

もう大人しくしていて欲しい。敵わないと分かったはずだ。仕方が無いとはいえ、やはり命を奪うことは辛いものだ。ジャズはそう思い、武器システムを収めた。隣に立つ男も同じくシステムの作動を止め、その鋭利な歯を収めた。

すっかりと暗くなった紅い日の光が、ゆるりと男を照らす。黒いボディにそれはゆらゆらと映えた。
現在では唯一と言って良い、自分と体格の変わらないディセプティコン。非常に好戦的で残虐と知られているこのディセプティコンは、しかしジャズと戦闘での相性が良かった。敵としてではなく、共通の敵を相手した時、驚くほど戦いやすいのだ。
背を預けるような信頼はない。援護や救援は期待しない。相手がどうなろうと知ったことではなく、出来れば敵と一緒に片付けたい。
そして彼はジャズにとって全く信用しなくて良い相手だ。欺瞞の民からでさえ、嘘吐き呼ばわりされるほどに虚偽に塗れている。それがジャズにとっては扱いやすかった。
だからこそだろうか。共闘時のその自由度は計り知れなかった。相手を全く気遣わなくて動けるというのは、なかなか体験出来ないだろう。オートボッツは仲間を護る為、ディセプティコンズは己の背後を護る為に、無意識に思考回路の数パーセントを割いている。それが彼相手だと、無い。
更に自分達は戦闘タイプが似ていた。相手の動きを考えて動く思考先行型なので、全くお互いが邪魔にならない。合わせようとしなくても、合う。動きに合わせているのか、合うように動いているのか、ぴたりと息が合った。

まったくこれは面白いことだ。ジャズはこのことはオートボッツの誰にも言ってはいない。隠すつもりはなく、言わなくても良い事だと考えていた。勿論、問われたら隠さずに答えるだろう。ただ問われないから言わない。密かな楽しみであった。
このディセプティコンもまた、誰にも何も言っていないのだろう。ジャズはそれを確信していた。

「なんだ」
じっと見ていたからだろうか。ディセプティコンが怪訝な顔を暗い夕日の下に晒した。赤い瞳が存在を主張する。
「ん。どうかしたか?」
笑って通じないしらを通す。ふん、と興味なさ気に視線を逸らされ、ジャズはまた笑った。
「もう明日には襲ってこないだろうな」
「ふん。暴れたりんな」
そうであれば良い、と思ってぼつりと呟いた言葉につまらなさそうな声が返る。らしい言葉だった。
「お前さん、十分暴れたじゃないか」
「あんなものでは物足りん。俺はモノを壊すのはあまり趣味じゃない」
「モノ、ねぇ」
「ああ。壊すのは知能ある生命体に限る。例えば・・・貴様のような」
ディセプティコンは再び武器システムを作動させたが、ジャズは慌てなかった。
「OK、OK。お前さんの趣味はよ〜く分かった。あまり、というか全くろくなものじゃないけどな。今は止めようぜ。俺は疲れた」
なにせ一日中戦いっぱなしだったんだ。おどけた口調でジャズは言い、近くの岩に座った。後ろの大岩の影になった、周囲よりいっそう暗い場所だった。
少し高くなった視界に、もう薄闇にすっぽりと包まれた平野が映る。通常モードの視覚センサーでは夥しい数の死体は個体で判別することは出来ず、ただの小山や岩のようにそこにあった。
命のやり取りの後だ。彼らは全くこちらの言葉に耳を貸さず、襲い掛かっていた。応戦して倒すしかなかった。数で圧倒的に勝る敵は、しかし力で劣った。結局のところ、ジャズとディセプティコンの相手ではなかったのだ。
圧倒的な力の差で相手を叩きのめす。そこに微かな快感を確かにジャズは感じていた。戦いによる高揚感からはもはや逃げられやしない。ただいつもと違うのは、後味の悪さだろうか。ディセプティコンズと戦う時には感じない罪悪感と、少しの物足りなさ。
いやな感覚だ。人のことを言えやしない。ジャズはその思考を半ば無理矢理シャットダウンさせた。

「バリケード、来いよ」
座っている岩の隣を叩き、まだ立ったままのディセプティコンを呼んだ。来なくても良い。そんな軽い気持ちでだ。
するとバリケードはゆっくりとした足取りで近づき、そしてジャズの隣に腰をかけた。
珍しいこともあるものだ。ジャズはそう思ったが音声には乗せなかった。ちらりと横を見、そして少しだけ笑っただけだった。

すっかりと日も落ち、紅い光は消えてしまった。空の天辺はすっかりと闇色で、大気が薄いのだろう、散りばめられた星が煌いていた。その中を細い衛星が白く鋭く輝いている。
アーク号の中で嫌というほど目にする光景だ。しかしこうやって地表に降りて見るものはどこか違ってみえた。同じ恒星の輝きだというのにおかしなものだ。しかし悪くはない。
夜の静かな星だ。昼間の喧騒とは大違いだった。夜に眠る有機生命体の星。未熟で野蛮な生命体が支配する星だが、健全な命の匂いがした。そんな匂いなどないが、そういう表現がしっくりとくる。

なんとなくジャズは寂しいと感じた。隣に座る男は何を考えているのか全く分からない。それでもそこに居るだけ良い。そう思えるほどに、一度感じた寂しさは募っていった。
肩が触れる距離だ。バリケードが珍しいことをしたから、自分もしたくなった。そうおかしな言い訳をして、ジャズはこっそりとバリケードに体重を掛けた。ほんの少し、凭れ掛けるように。
すぐに退くか、罵るか、下手をすると攻撃してくるかと思ったが、そのどれともバリケードが取った行動は違った。やはり今日は珍しい。おかしいのは自分か、彼か、一体どちらだろう。ゆるりとジャズは笑った。自分に掛かってきた重みがどこか心地良い。そう思った。

影が深まる。暗めの銀のボディと艶めいた黒のボディは凭れ合い、ひとつの影となってすっかりと闇に融けて込んでしまった。誰も、その姿を見るものはいない。

日が昇る前にバリケードは何も言わずに去って行った。ネメシス号へと帰ったのだろう。ジャズはこれからこの星の調査を始める。もう邪魔は何もない。そしてジャズもまた、すぐにアーク号へと戻るだろう。この星に彼らが求めるものは無い。ジャズは確信をしていた。





FIN