BLUE BIRD





バリケードはモニターを見ていた。表示される情報に特に問題はなく、幸か不幸かまだ退屈な時間は続くようだ。
コンソールを操作する手を止め、椅子に深く腰を沈めた。
静かだ。今、このネメシス号のブリッジにはバリケードしかいない。ボーンクラッシャーとデバステーター、フレンジーは休息中だ。スコルポノックはブリッジにいることいるのだが、隅の方で丸まって寝ている。
この期間、バリケードと共に見張りをしているはずのスタースクリームは、なぜか休息中のはずなのに起きてきたブラックアウトといざこざを起こし暴れだしたので、外へ放り出した。決着が着いたら戻ってくるだろう。今のネメシス号はゆっくりと移動しているので彼らの能力から問題はない。いや。帰ってこれなくともなんの問題もないかもしれない。

バリケードはそう思うほど、彼らのことにはうんざりとしていた。
もともと気が長い訳ではなく、むしろ他の誰よりも短気だと評されていたはずの自分が、どうしてこんなことをしているのだろうか。この航海に出てから色々と新たな自分というものが発見されたが、どれもこれも知りたくもなかったようなものばかりだった。
どうしてあの二人はああなのだろうか。どうして自分ばかり巻き込んでくるのか。きっと初めにあの二人が衝突した時に口を出してしまったのがいけなかったのだろう。あの時の自分を殺してしまいたいが、きっと放っておけば全滅していただろうし、そうなったとしてもきっと他の連中は仲裁には入らないだろう。

バリケードからすれば、スタースクリームは性格もろもろに問題は大有りだが性能的には自分達の中で一番なのは確かなのだし、本人もリーダーをやりたがっているのだからやらせておけば良い、と思うのだ。リーダーなど面倒事以外の何でもないのだから。それにああいう輩は煽てておけば結構良い仕事をするものだ。
それなのにブラックアウトは事ある事に突っかかるのだ。スタースクリームが気に入らないのは良く分かるが、どうもやることなすこと全てが気に入らないようで、彼がまともなことをしても文句を聞かされると頭が痛くなる。
ブラックアウトがスタースクリームに意見したおかげで、問題のなかったはずの計画がおかしな方向へ行くことなど良くあることだった。たとえ正しいことでもスタースクリームが言えばブラックアウトにとっては過ちで、それを指摘されて黙っているスタースクリームではないからだ。
仲が悪いのは結構だ。自分達は仲良し軍団ではない。しかしそのせいで正しい判断が出来ないというは愚かだ。本当に愚かしいことだ。

早く、決着がついて欲しい。メガトロン様がどうなられたか、はっきりとした形で知りたい。これ以上なにも分からぬままではディセプティコンは膿み腐り、そうしてオートボッツにやられてしまうだろう。
メガトロンの生存を望みながら、それでも行方の知れぬままならば訃報をもたらされる方が良いと、そう考えてしまう自分の思考回路にバリケードは自らを嘲笑った。
ブリッジに低い笑い声が響く。スコルポノックは少し身じろいだが、起きることはなかった。

静かなネメシス号が騒がしくなった。
結果は分かっている。バリケードは敗者の回収の為に眠っているスコルポノックを起こした。彼と入れ違いに、勝者がブリッジに入ってくる。どうやら今だ怒りは収まってはいないらしく、不機嫌さを隠そうともしない。乱暴な所作で中央の指令席へと腰をおろす。
それを尻目にバリケードは自分の席へと戻った。外の状況をモニターに映し出す。どうやら無事にスコルポノックは主人を回収したようだった。コンソールを操作し、運転を切り替える。ネメシス号のスピードが増した。

「バリケード」
声をかけられた。いらいらとした不機嫌な声だ。こちらに当たるなと言いたいのを堪え、バリケードはなんだ、と体の向きをかえ、声の主を見る。
「来い」
「今はお前に構ってられん」
「バリケード!来いと言ってる!」
すげなく返すと、荒げた声と、更にはガンッという音が響いた。拳を叩き付けたのだろう、スタースクリームの席の前にあるコンソールはシュウシュウと嫌な音と煙を上げていた。また修理に時間を取られるな、とバリケードはため息を付きながら立ち上がった。致命的な壊れ方をしていなければ良いが。

スタースクリームの隣に立つとぐっと腰を引かれ、その膝の上にバリケードは倒れこんだ。小柄なバリケードはすっぽりと膝に収まってしまう。
「スタースクリーム。下ろせ」
「五月蝿い」
正面を向いた形で座らされ、スタースクリームの表情がバリケードにはよく見せた。軽く拒絶してみせると、見せる表情にバリケードは頭が痛くなった。
そんなのは反則だ。どうにも自分はこの表情に弱いと認めざるえない。ぎゅっと抱き込まれ、痛いと文句を言いながらも、バリケードはスタースクリームの好きにさせてやるのだった。





FIN