Minha Namorada 13
※ジャズがラチェットの治療により復活、バリケードが生存している、というIF設定のお話です





「良かったの?ジャズ」
バンブルビーの声は明らかに怒りを含んでいた。
「なんで引き止めなかった?好きだったんでしょ?あれだけ一生懸命だったじゃないか!なんで?!ねぇ、なんでさ!」
「とりあえず落ち着け、ビー」
「おいら落ち着いてるよ!なんでジャズはそんなに落ち着いてるのさ!?」
「いや、ほんと。ちゃんと説明するから、落ち着けって。言ってることが滅茶苦茶だぞ。冷却水は足りているか?」
「足りてるよ!ジャズの馬鹿!」

バンブルビーがサムとミカエラを伴ってフーバーダムに遊びに来た時には、すでにバリケードは出て行った後だった。
サムとミカエラは顔を見合わせ、バンブルビーは呆然とし、そしてジャズに激突する勢いで詰め寄った。
「ちょっとジャズ!どういうことだよ!?」
珍しいバンブルビーの大声に、何事かと他のメンバーもエントランスに集まってくる。そして目の前の光景に納得するのだった。

「落ち着いたか?」
「うん。・・・ごめん、おいらなんかびっくりしちゃって・・・」
先ほどの激昂はどこへいったのか。バンブルビーはぺたんと床に座り込み、しゅんと項垂れてしまった。ジャズは肩を竦め、気にするなと慰める。自分のことでバンブルビーにそんな顔をさせたくはなかった。
「いや。言ってなかった俺も悪かった。ビー、サンキュな」
「何が?」
自分は怒られこそすれ、感謝されることなどしていないはずだ。首をかしげる。ジャズは柔らかく笑っていた。
「なんかお前がさ、そんな風に怒ってくれるなんてすげーなって思った。事あるごとにおまえさ、本気なの、本気なのって聞いてただろ?」
「・・・うん」
「それなのに、ちゃんと認めてくれてたんだな、って。だからありがとうな、ビー。そんでもってごめんな」
「・・・うん」
ジャズが手を差し伸べる。バンブルビーは迷い無くその手を取った。
起き上がったバンブルビーと目を合わせ、ジャズは話し出す。

「俺も止めたんだ。でもな、あいつに言われちまった」
ジャズは一旦話を止め、頬を掻いた。
「お前が自分の立場だったらどうする?ってな」
なあ、ビー。お前はどうだ?ジャズの目が雄弁にそう語りかける。
立場。バリケードの置かれた立場。自分の立場。入れ替える?それはつまり、考えたくもないが、自分がひとり残り、仲間が皆いなくなってしまうこと。そして敵であった者達の元へ身を置くこと。ディセプティコンとしてやっていくことを選ぶ?そして徐々にその環境に馴染んでいって、そして。そんな時に自分以外に生き残った仲間が、他の仲間を連れてやってくる?戻って来いよって言われて、拒めるか。オプティマスが居ない、だけれどもそこには確かに彼のオートボットが居る、その場所へ。
「俺は・・・俺もきっと戻る。逆の立場であいつが引き止めても、戻りたい、そう思っちまうよ、俺」
バンブルビーはぎゅっと抱き締められた。
「なぁ、ビー。俺さ、格好付けないって言ってたのに、最後で格好付けちまった。・・・本当は絶対離したくなかったんだぜ。あいつの都合なんて、気持ちなんて構ってられねぇって。そんな戻りたいって思いなんて俺が消してやるって。そう思ってたんだ。格好悪くても良いから、絶対に離さないって・・・」
「・・・うん」
なんて声を掛けて良いのか分からない。バンブルビーはただ頷き、そしてジャズの身体をぎゅっと抱き締め返した。
「だけど・・・出来なかったんだ。・・・馬鹿だよな、俺」
「うん・・・うん」
そんなことはないよ。論理回路が出した答えをバンブルビーは声帯に乗せることは出来なかった。



「私は止めるべきだったのだろうか」
オプティマスがぼそりと呟いた。答えたのはラチェットだった。
「まあ、立場的には止めるべき問題でしょうな」
ディセプティコンは敵であり、その兵力は減らすべきものだ。間違っても増やすべきものではない。バリケードが戻るというなら、反対し、最悪は殺すことが軍として、組織として正しい。
しかし、とラチェットは続けた。
「私はオートボットとして、貴方の不干渉も、ジャズの行動も間違っていないと思います。正しくもないが、間違ってもいない。我々がすべきは・・・この星が新たな戦場にならないようにすること、誰も死なないように生き抜くこと。そして、我々がかつて諦めてしまったことを成そうとする者達を助けることです」
本当ならば、あんな辛い思いはさせたくはないが。ラチェットはほうと溜め息を付いた。そして歩き出す。向かう先は小さな友人達のところだ。ジャズとバンブルビーから距離を取って二人を見守っている。未熟ながらに、いや未熟故の可能性を持った子供達だ。

ラチェットの背を見送り、オプティマスが口を開いた。
「我々は最善の予測を実現させることが非常に困難だと知っている。素晴らしいものであればあるほど、苦しく辛い。そんな思いをさせたくない、と思いながら、どうしてだろうな。まだその絶望を知らない者に、もしかすればと期待してしまう。何人同じ思いを味あわせてしまったのだろうか」
オプティマスの声が沈む。深い後悔と、哀しみ。嘆き。
「しかし叶えた者もいる。それは確かだ、オプティマス」
誰に聞かせるでもない独り言のようなものに、隣にいたアイアンハイドが応えた。
「辛くとも我々は支え続けなければならん。これ以上の不幸を増やさん為にもな」
そして自分達の為にも。
アイアンハイドは力強く言った。
「そう・・・そうだな。我々の諦めてしまった最善の未来。ありのままお互いを受け入れる、か」
オートボットのまま、ディセプティコンのまま、共存する世界。開戦時は頑張れば、努力し、願い続ければいずれ叶うと思っていた。再びかつてのように戻れると。しかし実際はどうだ。現実はどうだった。願う気持ちは共存ではなく、相手を倒すことへと向かっていった。そして忘れるのだ。元あった願いを。諦めるのだ。叶うことを。
「我々の二の舞はもう・・・ごめんだな」
「そうだな。・・・あいつは、あいつ等は強い。大丈夫だ、オプティマス」
「・・・ああ」
「さあ、我々も行こう。見てみろ、またラチェットの奴が余計なことを言っているんじゃないのか?」
アイアンハイドの指し示す方向では、皆が笑っていた。
オプティマスは笑った。そしてその方向へと足を踏み出した。



「そういえば、君達、知っているかね?」
「きゃっ!」
「うわっ!」
バンブルビーとジャズのやり取りを離れて見ていたサムとミカエラの背後に、ラチェットだぬうと立ち、声を掛けた。
ふたりは当然驚き、声をあげた。それを聞いて、バンブルビーとジャズがこちらを向く。
「ちょっとラチェット驚かさないでよ!・・・で、何?」
先に回復したのはやはりミカエラで、彼女は抗議しながらも好奇心はしっかりと忘れてはいない。
バンブルビーとジャズが近づいてくる。バンブルビーはサムに大丈夫と尋ね、ジャズはミカエラと並んだ。
集まったメンバーを楽しげに見回し、ラチェットが口を開いた。ジャズはそれだけで碌なものじゃないな、と思ったが、止めなかった。後に激しく後悔することになる。
「ふむ。ジャズとバリケードより、君達の方が先輩だ、ということだな」
サムとバンブルビーが首を傾げる。どういうこと?分からないよ。そういうやり取りがきっと二人の間で成されているだろう。声は無くとも。
しかしミカエラとジャズは違った。
「ちょっとーーー!なんで貴方が知ってるのよ!ねぇ!ちょっと!」
「なんで知ってんだよ!どこで覗き見てたんだよ!っていうか、どこまで知ってるんだよ、アンタ!」
二人で似たような事を叫び、そして顔を見合わせた。
「「ラチェット!!!」」
そしてハモる。
「まあ、見なくとも分かるぞ。はっはっは」
二人に詰め寄られてもラチェットは涼しい顔で、鼻に当たる部分をひくひくと動かしていた。

「相変わらずだな」
傍に来たオプティマスが少し呆れた、それでいて暖かい声を漏らす。
「あ、オプティマス」
まだ何を言われているか気付いていないサムがやあ、と声を掛けた。
「ラチェットのああいうところは死んでも治らんよ。しかし、まあ、あいつがねぇ。こりゃあ、意外だ」
アイアンハイドもやって来て、三人の繰り広げる喧騒を楽しそうに眺めた。
サムとバンブルビーは再び顔を見合わせ、首を傾げる。
でも、まあ、楽しそうだからいっか。そして笑い合うのだった。





FIN