王の眠り
オプティマスはゆっくりとした動作で上体を起こした。隣で眠る男を起こさないように、慎重に寝台から降りる。窓辺に立ち、そこから感知出来る景色を視覚センサーのみで拾う。空に輝く恒星は無く、代わりにセイバートロンの衛星が小さく煌いていた。眼下を見下ろすと、休まない都市に光が溢れている。
窓辺のカウチに腰を下ろす。室内を見やる。灯りを落とした部屋は、通常モードのセンサーでははっきりとは見えない。感度を上げれば容易く視界はクリアになるが、オプティマスはそうしなかった。この薄らぼんやりとした曖昧な世界は、もう彼と居る時にしか見ることは出来ないだろう。そう。無防備でいることは許されぬ立場となった今では。
再び外界へと視界を戻した。
この星の、この星に住まう幾万の同胞達を統べる者、か。オプティマスは国家元首となったが、そう称えられるのに違和感を感じた。自分はそういう者ではない、そう思うのだ。国家元首は王ではない。寧ろ、幾万の同胞に仕えるべき者だ。民を護り、民の為に働き、民の為に生きる、そういう者だ。そう思うからこそ、自分はその地位を受けたのだ。王ではない。王とは。
オプティマスはゆっくりと振り返った。薄暗い室内の寝台の上の影。それにピントを合わせズームアップする。センサーの感度を上げた。クリアになるその姿に、オプティマスはゆるりと微笑んだ。
王とは彼のことだ。
まことの王の資格を彼は全て兼ね備えている。揺ぎ無き王格の持ち主。
だからこそ、オプティマスは彼を防衛司令官という立場にと望んだ。今の世に王はいてはいけない。
いずれ彼は気付くだろう。いや。もう気付いているのかもしれない。しかし彼は言ったのだ。共に、と。
カウチから腰を上げる。煌く外界の喧騒と、静かな薄闇の室内を見比べる。どちらも護るべきものである。仕える民を、傅く王を護る為に就いた地位。我ながら身勝手なことだと苦く笑い、オプティマスは静かに寝台に戻った。
「メガトロン」
小さく呟き、そしてそっと額に触れた。男は目を覚ますことなく、眠り続けている。もう一度、その額に口付けを落とし、オプティマスは男の隣に横になった。
私の王よ。どうか目覚めることの無きよう、私は願う。叶うのならば、永久に。
オプティマスはゆるやかに薄れゆく意識の中、そう願った。共に、と。
FIN