嘘吐きのエイプリルフール





四月一日。エイプリルフール。
この日は嘘を吐く日らしい。
それがトランスフォーマー達のとりあえず出した結論だった。
間違いではないがどこかおかしいのは、異文化交流においては仕方が無いことだ。どれほど正確な知識や膨大な情報を得ても、どこか齟齬が生じる。それは有機生命体であっても、無機生命体であっても変わらないらしい。
そんな訳でトランスフォーマー達が身を寄せているフーバーダムでは、あちらこちらで他愛も無い嘘が飛び交った。一部では酷い罵り合いになり殴り合いに発展していたが、彼らの上司からの制裁により事なきを得た。そしてまた顔を見合わせては、同じ事を繰り返し、ある者は笑い、ある者は呆れるのだった。

そんな何時もより賑やかな居住地で、バンブルビーはある男の嘘を聞いていない事に気が付いた。オプティマスやメガトロンまで面白がって色々軽い嘘を吐いている中、きっと誰に聞いても一番の嘘吐きはあいつだと答えるバリケードが沈黙している。勿論、皆と話しはしている。誰かの嘘に突っ込みを入れたり、乗ってみたりはしているのだ。だからきっと誰も気が付いていない。彼が嘘を吐いていない事に。
バンブルビーがそれに気が付いたのは、彼の嘘に構えすぎていたからだった。こういう日だ。きっととんでもない嘘を吐くに違いない。それは自分の考え付かないようなものだ。誰にも見破れないようなものだ。だからきっとそれを自分が見破ってみせる。そうバンブルビーは31日に密かに決意していた。日頃からバリケードにお前は騙され易過ぎると言われているので、バンブルビーはこの日こそはと燃えていた。

そんな意気込みで望んだものだから、バリケードの姿を自然と追うことになる。話の内容にも耳を傾けているうちに気が付いた。彼が嘘を吐いていない事に。
あまりにも滑らかな嘘を吐いていて、全く気が付けないのかもしれないが、そこまでいくともうそれは嘘では無い。バンブルビーはバリケードと生活を共にするようになって、彼と上手にやっていく方法が分かってきた。それは信じ過ぎず、疑い過ぎず、だ。嘘を吐くのが上手すぎるので、それを疑っても意味が無いと気が付いたのは何時だったか。

皆が吐いているのはあからさまな嘘だ。そんな嘘をバリケードは結局この日吐かなかった。

一日がもうすぐ終わる頃、バンブルビーはバリケードの私室を訪れた。一度気になりだした事は、とことん気になるのだ。かつての間柄ではとてもでは聞けない事も、今では聞くことが出来る。そうなるとバンブルビーはその好奇心と探究心を抑えられなかった。
そうして訊ねた疑問の答えはある意味彼らしいものだった。

「嘘は自然に出てくるものだからな。付けと言われては吐けん。それだけの話だ」
「・・・なんとなく分かるけど、やっぱり良く分かんないや」
「まあ、つまりだ。嘘吐きは嘘が吐けなくなる日だな」
「何それ」
上手くはぐらかされた気がしたが、それ以上の追求は無理と諦めてバンブルビーは彼の部屋を後にした。

そして二日の朝。
バリケードはバンブルビーに嘘を吐いた。騙された事に気が付いたのは、二日が終わる頃だった。勢いよく駆け込んで来たバンブルビーにバリケードはにやにやと笑ってみせた。
「やっぱりお前は騙され易過ぎるな」
言葉にならないバンブルビーの叫びがフーバーダムに木霊した。





FIN