フレンジーの定期健診
※フレバリでエロです。寧ろ、フレンジー様総攻め。





「バーリケードッ」
そのなんとも嫌な響きを含んだ声に、バリケードは警戒と嫌悪も露に声の主を見た。せわしなく四本の腕を動かし指を遊ばせる小柄な身体が機嫌良く跳ねている。バリケードの機嫌は一気に下降した。論理回路が嫌な予測を確定させる。
関わると碌な事はない。バリケードはさっさと彼の傍を離れるべく立ち上がった。職務など放棄だ。それにこのままここに居たとしても、職務を全うできる確立は0に限りなく近い。もう遅いかもしれない、とどこかしらで諦めにも似たものが膨れ上がりつつあるのを無視し、歩き出す。

「オイ、コラ、バリケード!」
立ち上がり、ブリッジを出て行こうとするバリケードにかけられる言葉は、その内容とは裏腹に全く怒りも焦りも見えない。それどころか明らかに面白がっている。
苛立ち紛れに踏み潰してやろうか。そうバリケードが思考回路の奥で考えた時、がくりと膝が崩れた。そのまま体勢を保てるはずもなく、全くの不意をつかれた事もあって、バリケードは無様に床に手を付く羽目になった。ケタケタと笑う声の主をぎっと睨みつけると、更に嬉しそうに手を叩き出す。バリケードは諦め切れない苛立ちと怒りの乗せ、思いっきり彼の名を怒鳴った。たとえそれが彼を更に喜ばせる事になろうとも、出さずにはいられなかった。
「フレンジーッ!!!貴様ッ!」

膝を付いたバリケードの周囲を悠々をした様子でフレンジーは回る。手の届く距離に居るのに、肝心の身体が動かずバリケードは低い唸りを上げた。
「うーん。外殻の方は特に異常は無いみたいダナ」
「もう少しやり方があるだろうっ!」
バリケードとてフレンジーが何をしようとしているのかは、すぐに分かった。が、そのやり方がはっきりいって気に入らない。毎度毎度、どうして不意打ちに騙すように行わなければならないのか。どうしてウィルスを使って自由を奪わなければならないのか。
フレンジーの定期健診はネメシスクルー全員の不興を買い続けている。が、一向に改善される気配は無い。
それもこれもフレンジーの行った健診結果しか受け取らないあの男のせいだ。バリケードは怒りの行方を分散させた。フレンジーばかりに向けるととても回路の繊細な部分が持ちそうになかった。

こつこつ、と音を立て、細く小さい指先でフレンジーがバリケードに触れる。丹念に触れるその指と、笑い声を上げながらも存外真剣な色を浮かべる青い視覚センサーに、バリケードは自身の諦めが大きくなるのを感じた。
フレンジーにとってこの仕事を与えた男は絶対だ。下手をすればあの大いなる指導者よりも、だ。それに報告する為のデータだ。フレンジーが手を抜くはずもない。

「他の連中は?」
怒りと苛立ちは未だ収まらないが、それでも幾分落ち着いた。そして先ほど出て行ったきり帰ってこないデバステイターと、シフト交代のはずなのに姿を見せないブラックアウトとボーンクラッシャーの行方を訊ねる。一応の確認だ。答えは分かりきっている。
「診断終わって寝てるゼ」
デバステイターはそのまま休憩に入るだろうし、ボーンクラッシャーはその内来るだろう。ブラックアウトはちーっと時間が掛かるかもな。
そう言ってフレンジーはバリケードの眼前で盛大に笑った。
「ア、ソウソウ。我らが首領様は当分起きてこねぇかもナ!」
「お前・・・」
呆れた声に嬉しくて堪らないという声が被る。
「全くあいつ等は学習しねぇヨナ。大人しくしてりゃあ良いのにヨ、抵抗するから俺もつい本気になっちまう!オイ、バリケード!何時あいつ等が大人しく健診を受けるか、賭けをしねぇカ?俺はそんな日がこねぇ方に賭けるネ!おっと、これじゃあ賭けにならないカ?あいつ等が大人しくしてるなんて有り得ねぇもんナ!俺達がオートボッツに負けるくらい有りネェ!」
「・・・センサーの傍でキィキィ喚くな」
「ハッハッハッ!そりゃあ、悪いネ!心配するなヨ、相棒。お前さんはそりゃあ、丁寧にしっかり診てやるからヨ!」
碌でもない宣告だ。有り難くもなんとも無い。寧ろ、御免被りたい。
「普通で良い。さっさと診ろ」
出来るだけ静かな声を出して、バリケードは溜め息混じりにそう言った。

「今度のウォルスも良く出来ているダロ。流石俺様。ひとりひとり違った処方なんだゼ」
そんなバリケードの怒りを煽るかのように、キシシ、とフレンジーが笑う。
バリケードの演算回路は最早最悪の結果しか算出しなくなった。この腕が動けば、いや、指先だけでも動けばこの最低野郎をぶっ潰せるものを。
目の前の変態も、彼の主も、毎度良いようにやられている現首領も、威勢の良いあの馬鹿も、全てが腹立たしい。しかし一番苛立つのはウィルスの進入を毎回許してしまう自分だ。相手が自分より情報処理能力に優れ、遥かに優秀なハッキング能力を持っており、それだけが彼の生命線だということは分かっているが、良いようにやられるのはやはり腹立たしい。
理性では諦めているが、感情はそうはいかない。そんな矛盾にヒートアップする回路に、ある変化が起こる。
睨む視線に疑問を混ぜると、フレンジーがご機嫌な様子を崩さずに相変わらず笑っている。
「まあまあ、落ち着けヨ」
でないと、自分の為にならないぜ。
「ふざけるなっフレンジー!いいから、この気色悪いウィルスを解除しやがれ!」
厭らしい声と顔の動きに落ち着けるはずもなく、バリケードは不利になると分かっていても唯一自由になる口で吼えた。その瞬間、回路に感じる違和感がはっきりと分かるほど大きくなった。
「オイオイ、バリケード。折角忠告してやったのニ、自分から活性化させてどうするんダ?」
「・・・クッ」
回路内を小さく蠢くモノが居る。パルスの類ではなかった。同時に回路全体に一定数の走査線が駆け抜けるのを感じた。こちらは診断の為のスキャンによるものだ。それは分かる。しかし、前者は何だ。こんな動きをするウィルスは初めてだった。酷く、そう酷くそれは生物的な動きをしている。

「フレン、ジー・・・」
「どうヨ?心配しなくても悪い事はしねぇヨ。タダ、ちょっと好い気分になるだけサッ!」
「どこが、だっ!」
正直気持ち悪い。全身に異物が混入し、それが蠢いているのだ。直接神経を刺激される感覚は、不快でしかない。
「マア、こういうのは初めはアレでも慣れてくると好くなってくるもんサ。そろそろじゃねぇかぁ?ナア、バリケード」

バリケードは何度目か分からないふざけるなという言葉を発声しようとしたが、寸でのところで声を噛み締めた。
フレンジーの言葉通り、不快な感覚が一気に快楽と呼ばれるモノに変わる。酷い声を上げそうになった。
「オッと、キたカ」
ギチギチと指を鳴らし、全身を躍らせ、嬉しそうに気持ち良いだろ、と繰り返し執拗に聞いてくるフレンジーを睨み付ける。
「イイ顔してるゼ!バリケード!」
そうしてバリケードにとって最悪な事を謡うように告げた。
「そのウィルスは興奮すればするほど、活性化するからナ」
一度注入されて気持ち良くなったが最後。活性増殖しまくりよ。エネルギーが無くなるまでヨガリ続けるぜ。まあ、ダウンするより先に先に狂っちまうかもな。
そのあまりにも嬉しそうに語る様子に、バリケードは彼の質の悪さを改めて感じた。
「この、変態ッ、めっ!・・・ッ・・死ねッ!」
「ホラホラ、興奮すると酷くなるって言ってやってるダロ?」
交感神経系のパルスが餌だからな。笑うフレンジーの顔が歪む。視覚センサーが送る画像が上手く中枢に繋がらない。ウィルスに侵された回路が正常な伝達を放棄している証拠だった。
「ちゃんとワクチンは用意してるから安心しなヨ?」
ノイズ混じりに聞き取った声に、殺すと返したはずだったが、出てきたのはトンだ喘ぎ声だった。バリケードは侵食を受けていないスパークの内で盛大に罵った。



「そろそろカナ」
フレンジーは集め終わったデータを整理しながら呟いた。全く良いデータが取れたものだとほくそ笑む。
目の前ではバリケードが痴態を繰り広げている。とは言っても身体は床に横たわったまま動いてはいないが、それでも時折ビクビクと痙攣している。声帯を切る事を思いつく前にウィルスが活性化したお陰で、喘ぎ声は止まる事を知らずにその口から漏れていた。
フレンジーが気紛れにその身体に触れると、その声と痙攣はいっそ激しくなった。
その快楽に塗れた様子に、今度は時間が経つと身体機能がある程度戻るようにしてみようと、考えた。きっと更に乱れてくれるに違いない。なんだかんだで快楽に貪欲な奴だ。
それとも、もうひとつのプランが良いだろうか。目の前の痴態をしっかりと記録しながら、フレンジーは思考した。メモリーにアクセスし、その記録を追体験させる作用を持ったウィルスの完成は間近だ。メモリーを覗いたり、盗み出すのも楽しいが、実際に本人に再現して貰った方がずっと楽しいだろう。
ああ、夢は広がるばかりだ。自分の主は良い命を与えてくれたものだ。大義名分は自分にあるのだから!

フレンジーが悦に入っていると、一際大きな声が上がった。バリケードがまたイったらしく、途切れ途切れに声にならない音を漏らし、ガクガクと震えていた。
「ア、ウァ・・・モ、ウ・・・」
苦しげな声が堪らない。フレンジーはもう少し聞いていたいと思ったが、流石に限界だろう、と彼の達した回数を数え思った。そしておもむろに右手を掲げ、データポットジャックとして起動させた。
さて、どこからアクセスさせるか。痙攣の止まらない身体を眺め、フレンジーは思案する。全身を眺め、ある一点に視線を定め、にやりと笑った。
「やっぱり、ココだロ」
ゆっくりと近づき、股関節にあるメイン衝撃緩衝器に左手で触れた。するとそれはあっさりと覆っていた外殻を外し、内部を露呈させる。
フレンジーは大仰に構え、そこへ一気にジャックを突き刺した。びくりとバリケードの身体が跳ね、フレンジーに彼の快感のパルスが一気に逆流してくる。その圧倒的な量にうっかり気を抜くと持っていかれそうだと、フレンジーは笑った。
快感の奔流をなんとかやり過ごし、隙を見てワクチンを送る。交感神経系を不活性化させ、同時に副交感神経系を過剰に活性化させるそれは、所謂精神安定剤のようなものだ。ただ、通常時に使うと二度と目覚めないかもしれないほど強い作用を持つ。毒を制するには毒だ。

しばらくするとバリケードが落ち着いた様子を取り戻してきたので、フレンジーはデータポットジャックを抜いた。落ち着きを通り越して、スリープ状態になるバリケードに、フレンジーはやっぱり少しやり過ぎたかもしれない、と思った。しかし、まあ、スタースクリームやブラックアウトの状態よりはマシなので、許して貰おう。フレンジーは二人の痴態を思い出し、笑った。主は良くやったと褒めてくれるだろう。
起きた後が恐ろしいが、フレンジーは毎度上手くやり過ごしている。まあ、半殺しは免れないが。
懲りないのはどちらか。

フレンジーはのそりとやって来たボーンクラッシャーにバリケードを運んでくれと頼み、自分専用のコンソールの前に腰をかけた。了解したと言い、再びボーンクラッシャーは扉の向こうに消えた。彼が素直なのは被害に合っていないからだ。フレンジーに抜かりは無い。
さあ、邪魔が入らないうちに手っ取り早く主に送信してしまおう!
滑るようにコンソールに指を走らせ、フレンジーはご機嫌に歌い出した。





FIN