HOUND DOG
スタバリでブラックアウトについてぐだぐだと喋っている話です。
まだスタバリとブラはちゃんとした形で出合ってません。
”犬”という言葉が出てきます。セイバートロンにそんなのが居る訳無いと思いますが、他に良い表現が思いつかなかったので、そのまま”犬”にしています。






スタースクリームはバリケードと共にレストルームに居た。非常に喧しく騒がしいそこをスタースクリームは嫌っていたが、バリケードに付き合わされる形でそこに来ていた。
要するにまんまとしてやられた訳であるが、スタースクリームはどうしてもいうから付き合ってやっているのだ、という自分の都合の良い解釈に代えることで良しとしていた。
話の内容は自分達が専門とする分野の事だ。はっきり言ってこのような場所でする話ではない。右を向いても左を向いても低脳な連中しか居らず、自分達の会話は理解する事は出来ないだろう。スタースクリームはそれを愚かしく思いながらも、有難いと考えていたが、やはり居心地の悪さはどうしようもない。

もういい加減、スタースクリームの決して強くない忍耐が儚く消えゆこうとしていた時だ。レストルームに新たな喧騒の元がやって来たようで、元々騒がしかったのが一層酷くなる。
「出るぞ」
「まあ、待てよ」
喧騒が嫌いなスタースクリームは茶番は終わりだ、と立ち上がろうとした。それをバリケードが制する。彼はちらりとスタースクリームを見、にやりと笑った。そしてそれは一瞬で、彼の視線はすぐに喧騒も元へと注がれる。

見え透いた手だ。視線の先のものをスタースクリームに見せる。それがバリケードの目的だったのだろう。
まあ、良い。スタースクリームはその様を冷めた目で見ながら思った。もう少しだけ付き合ってやっても良い、と。…あの男に興味があるのは事実だ。それが碌なものでなくともだ。
彼らが居るのは二階だ。吹き抜けになっており、階下が見渡せる場所に席を構えている。高みの見物とばかりに、他のディセプティコン達が階下の喧騒を覗いていた。
バリケードとスタースクリームもあからさまではないものの、意識の一部をそちらに向けている。

「で?」
手の中のエネルゴンをくるりと回し、気の無さ気な声でスタースクリームは先を促した。バリケードはにやりと笑う。嫌な笑い方だ。しかしこの表情で語るバリケードの言葉は、聞いておかねばならない。それはスタースクリームにとって何時か何らかの益を齎す情報であり、そして彼は今この時にしか話さないことは経験から知っていた。
貸しをひとつ。そう自分を慰め、スタースクリームは聞く態勢に入った。更に笑みの深まった正面の小さな顔につんと顎をしゃくり、腕を組み、先を促す。
「アレがどうかしたのか?」

「アレの事を知っているか?」
問いに問いで返されるのをスタースクリームは嫌う。それを知っていながらに行うバリケードに付き合うのは、過去の苦い経験からでしかない。怒りのままに彼の話を聞かず、逃したものは多かった。
「ふん。放っておいても聞こえてくるからな」
碌な評判ではないが。嘲りを込めたスタースクリームの言葉に頷き、バリケードは階下を見下ろした。
「そう。アイツの評判はろくなものじゃない。臆病者、卑怯者と呼ばれ続けているな」
貴様も似たようなものだな。口に出さずに思う。
バリケードの声には意外なことにあからさまな侮蔑の影は無かった。だからだろうか。スタースクリームは先ほどにも増して彼の話を聞こうという気になった。

「先日、俺はアイツの居る戦場を見た」
バリケードの声は決して大きくなく、騒がしいその場所に響くものではない。しかし馴染んだ声というものはそれを苦にはしない。
「行ったのか?」
問うと軽く肩をすくめ、少し嫌そうな顔を見せる。それが答えで、明確なものは返ってこなかった。その理由に思い当たり、スタースクリームも顔は顰めた。追求はしない。わざわざ自分から気分を害すこともない。
「まあ、実に評判通りの働きだったな。見習いたいほど見事な安全圏からの一方的な攻撃。指揮権の有効利用とは良く言ったものだ。従わされる者共にとっては死刑通達だろうが・・・まあ、”弱い”のだから仕方があるまい」
バリケードは一息吐き、エネルゴンを煽った。
それを見、スタースクリームはまどろっこしい事をする奴だと思った。面倒事は嫌いなくせに、語る事が好きなのだ。わざわざメモリーを呼び出して言葉で語るよりも、直接記憶回路へ接続する方がよっぽど効率が良い。接続が嫌なら外部メモリーを使えば良い。
何故か、と問えばそちらの方が楽しいのだという答えが返って来た。
――別に事実を伝えたい訳ではないからな。思惑を挟むのにこれほど便利なものはない。欺瞞の民を名乗るくせに、見てみろ。容易く偽りに踊らされているぞ、ここの連中は。どうして口から出た言葉なんぞを信じれるのか不思議だな。
そしてお前もだろう、と言って笑う男の横顔は、似ているところなど無いはずなのに自分と同じ参謀格の男の姿をだぶらせた。急降下した機嫌のまま、手酷く抱いたのは苦い思い出だ。

「あの戦術はなかなか使えるぞ。俺はごめんだがな」
「詳しく話さずに使えるもくそもあるか」
「お前は知ってると思っていたんだがな?」
確信を持って問う姿に、スタースクリームは軽く殺意を覚えた。ぎろりと睨み、そして階下に視線を落とす。
「アイツの事を色々と調べているみたいだな」
「・・・だったらどうだというのだ」
「別に。ただ、そうだな。珍しい」
沈黙が流れた。もうバリケードの方から話すことはないだろう、とスタースクリームは分かっていた。ここでお終いにするか、自分が話すか。まだ何も有益な情報は得ていない、それは明らかだ。つまらぬ駆け引きだ。スタースクリームはそうスパークの内で吐き出した。

「・・・何故アレをお傍に置かれるのか、と思ってな」
二人きりの時とは口調を改める。全くもって面倒だ。
「なんだ。嫉妬か」
にやりと笑うその横っ面を引っ叩きたいが、今は抑える。
「馬鹿馬鹿しい。ただ、あんな命を忠実に守ることしか出来んようなものを重宝する意味は分からんのだ。言われた事しか出来ぬ者があの場に居るのはおかしいと、そう思わないか、貴様も」
だからそれは嫉妬なのだ。バリケードはそう思ったが口には出さなかった。
「犬、だからだろう」
「犬?」
「ああ。アイツの蔑称にあるだろう。卑怯者、臆病者、腰抜け。そして大帝の犬。あれは蔑称じゃない。名誉の称号だ。誰よりも何よりも忠実な猟犬。主を決して裏切らない、命に背かない、余計な事をしない。奴にとって有益か、ではなく主にとって有益かで行動する。必ず手許に帰って来る。そして、主にとってその帰還が不要な時、奴は戻って来ないだろう。己の死が主に必要ならば迷うことなく差し出すだろうな。・・・どうだ。手許に一匹欲しいだろう?」
「それが見てきた貴様の結論か?」
「本当にアイツは気にしちゃいないんだろうな。周囲が何を言おうが、犬に言葉は通じんよ。・・・見てみろ」
バリケードは言葉を区切り、階下を示した。スタースクリームは同じように覗き込み、先ほどまで確かにあった一触即発の空気が綺麗に無くなっているのを見た。
件の男を囲み、喧騒はそのままに楽しげな雰囲気がそこにはあった。
「事実を知らんという事はこういう事だ」
バリケードが呆れた声を出す。
「アイツに使い捨てられたものは生きて帰ってこない。ドローンに思考は無い。普段のアイツは、お前も調べた通り、軍人らしい実直で無骨で不器用で、少々無神経なところがあるようだがこの軍に似合いの男だ。突っかかって行った奴を知らず懐柔してしまうような、な」
「・・・ふん。死人に口無しとはよく言ったものだな」
「あの男」
目線で示された男は、ブラックアウトに一番に突っかかっていき、そして今はその肩を組み、楽しげにエネルゴンを煽っている。
「捨て駒にされるとも知らず暢気なものだな」
本気でブラックアウトが”良い奴”だと思っているのだろう。男に対応するブラックアウトの態度を見ればそう思っても仕方が無いことかもしれない。
ブラックアウトは全く悪びれもせず、堂々と、真っ直ぐに男と向き合っている。もう長年の友のようですらあった。
「犬は自分に良くしてくれる奴に懐く。しかし主人の命は絶対、という訳か」
「当然だという顔をして、切るだろうよ」
再び、バリケードがにやりと笑った。

「あのお方がアレをお傍に控えさせる理由、分かったか?」
「ふん」
スタースクリームは立ち上がった。これ以上は何も得られるものは無いと判断したのだ。もう、こんな場所に居るのも、バリケードの相手をするのも御免だった。
「お前等みたいなのに囲まれていると、ああいう手合いも必要になるだろうさ」
「貴様が言うな」
立ち上がり出口に向かって歩き出す。向けた背に新たな言葉が投げかけられたが、スタースクリームは立ち止まらずに歩を進めた。
「次の作戦、アイツが下に入るぞ。上手く使ってやれよ」
せいぜい楽しませてくれ。小さな嫌らしい笑い声は喧騒に紛れず、スタースクリームの聴覚センサーを刺激した。

言われなくとも、使いこなしてみせる。邪魔な者は排除していかなくてはならない。スタースクリームは次の戦いを思い、声を出さずに笑った。










FIN