LORD STARSCREAM
『THE RTIGN OF STARSCREAM』を元に妄想した話。あくまで元にした妄想ですので、違うところは一杯あります。
バリケードが生存していて、スタスクの忠臣サンダークラッカーがいます。なんとなくBR→SS←TCっぽい雰囲気。






このままこの星で朽ちるのか。
バリケードは最早自分が助かるとは思っていなかった。身体の損傷は激しく、自己修復機能はろくに働いていない。働いたとしても回復するには時間がかかりすぎる。動けるようになるまでに、人間かオートボットに見付かってしまうのがオチだろう。そんな屈辱を受けるのならば、死んだ方がましだ。
動かない身体はもとより、内部機能もひとつずつ落ちてきている。視覚は片方のみ辛うじて歪んだ映像を写すのみで、聴覚もノイズが酷い。
生命活動に最も重要な部分を最後残すというのも、酷な話だとバリケードは今更ながらに思った。ゆっくりと死に向かっていくのがありありと分かる。そうしているうちに、またひとつ、機能が落ちた。それが何か、もう考えたくなかった。どうせ、無駄な事だ。

歪む視界に映る首の持ち主が羨ましい。
オプティマスに首を刈られたボーンクラッシャーは、まさに戦いの最中に一瞬でその生命活動を停止させた。何も思わず、何も感じず、死ねたのだろう。自分が死んだことさえ気付いていなかったのかもしれない。
それに比べ、自分はどうだ。バリケードは己を嘲笑いたかったが、その力させなかった。ただ、スパークのうちで嗤う。惨めで愚かで馬鹿らしいことだ。
トドメを刺さなかったのは優しさではなく、お前の惨たらしさだとオプティマスに言ってやりたかった。そんな事を言える立場ではないのは百も承知だが、最後くらい好きに言っていいだろう。
そう。最後だ。もうすぐ、身体機能は全て停止する。次は回路や中枢が落ちていくだろう。そして最後にスパークが消滅し、バリケードというトランスフォーマーは死ぬ。

あのお方はどうなったのだろうか。それだけが気がかりで、しかしもうどうでも良いとも思った。生きていようが死んでいようが、バリケード自身が居なければ意味が無い事だ。
そうしてふと、ひとりの姿が脳裏に浮ぶ。そしてバリケードは笑った。あれは自分ひとりで完結しているヤツだから、誰がどうなろうと自身さえあればやっていけるだろう。
少し自分に執着しているような素振りを見せていたが、死んだところで気にもかけないだろう。執着してもそれが目の前から消えればあっさりと切り捨てるのが、彼、スタースクリームだ。そうなる事は簡単に予想出来るが、それを少し悔しく感じるくらいにはどうやら自分も彼に執着を持っていたらしい。こんな状況だからこそ認められたのだろうが、あまり良い気分ではなかった。

意識を保つのも辛くなってきた。もういっその事、自身で全てをシャットダウンさせてしまおうか。最後に考えたのが彼の事だというのも癪だが、しかし疲れた。
そんな考えがバリケードの思考回路を巡った時だ。酷いノイズに混じって何かが近付く音が聞こえた。辛うじて生きていた生体センサーが同種だと告げる。索敵センサーはもはや役に立たないので、それがオートボッツなのかディセプティコンなのかは分からない。ただ、トランスフォーマーが大きな音を立て、近付いてきている。それだけがバリケードに分かる事だった。視界に納めようにも、動かない身体ではそちらを向けない。

それがすぐ隣に降り立ったことで、バリケードはディセプティコンだと分かった。オートボットは基本空を飛べない。いや。そうでなくともバリケードには分かった。それが誰であるのかも。
声をかけてくるが上手く聞き取れない。短気な彼はやや乱暴にバリケードの顔を掴み自分の方へと向けた。

「バリケード」

辛うじて聞き取れた自分の名に、バリケードは少しだけほっとした気分になった。そうして彼の名を呼んだが、どうやらろくな音声を出せなかったようだ。虚ろな視界にしかめっ面が映った。
ぐっと近くなった顔がもう一度自分の名を呼ぶ。バリケードのノイズだらけの割れた音声が、辛うじて彼の名を呼んだ。

「ガッ――ザッ、スダー・・・ス、ガッガ、クリー、ム」

次の瞬間、バリケードの中に大量の良質のエネルギーが流れ込んできた。それはスタースクリームのものだという事はすぐに知れた。何時の間に繋げたのか、エネルギー受容器には彼の接続端子が嵌っていた。
酷い損傷を受け自己修復では追いつかない場合、こうする事は間々あった。しかしまさかこの場面で行うとはバリケードは思ってもいなかった。最早、スタースクリームには自分を生かす理由も無いはずだ。自分よりも強い執着の対象がこの星に居るのだから。

送られてくるエネルギーにより、次第に様々な機能が回復してきた。クリアになった視界に自分を見下ろす不機嫌そうな顔が映り、思わずバリケードはその言葉を口に出した。先ほどよりもずっと聞き取りやすい声で彼の名を呼ぶ。

「スタースクリーム」
「なんだ」
「馬鹿め」

煩い黙れとばかりに腕を捻られれば、戻ってきた痛覚がしっかりと反応し、バリケードは小さく呻いた。それでもやはり馬鹿だと言ってやると、今度は口を塞がれる。離れていくと同時に、エネルギー供給が止められた。
バリケードは全快とは程遠く、まだ身体機能のあちこちが不能な状態ではあるが、最早死を感じる事が無い程度には回復していた。

「バリケード。貴様はこの星に潜伏しておけ」

至近距離で告げられた言葉に、バリケードはなるほどと彼の行動の理由を知った。生かす理由はそれかと思うと気分が軽くなる。別の理由などいらないのだ。

「お前はどうするんだ」
「フレンジーはどこだ」

質問には答えずに、スタースクリームは質問で返した。それが答えだと言わん態度に、バリケードはアイセンサーを細めつつ、口を開いた。

「恐らくダムだ。フーバーダムに居るはずだ」

どうなっているのかは知らないが。
そうだ。バリケードは他のディセプティコンの動向を知らない。デバスティターは、ブラックアウトはどうなった。そしてあのお方は。

「戦況は」
「・・・これからだ」
自分を抱える男を見上げ問うと、スタースクリームは嘲笑とも自嘲ともつかない表情をし、答えた。
それでバリケードは全てを理解した。静かにアイセンサーを閉じる。

「戻るのか」
「俺はオールスパークを復活させる。そして、全てを終わらせる」
「そうか」

それが本当なのか嘘なのかは分からない。スタースクリームの望みはセイバートロンに帰ることで恐らく叶うだろう。わざわざこの辺境の星に戻ってオプティマスと雌雄を決する理由が彼には無い。メガトロンならまだしも。
しかし他に方法は無かった。従うしかないのだ。今の自分にはこの星を脱する力は無い。

「スタースクリーム。お前の望み通り、オプティマス達の動向を探っていてやろう」
「お前は理解があって助かる」

酷い皮肉だ。バリケードはふん、と笑う。そしてスタースクリームに噛み付くように口付けた。激しく金属の舌が絡み合う。背に回した鋭い爪を思いっきり立て、ぎりぎりと引くとスタースクリームが微かに呻いて唇を離した。
ぎっと睨む赤い光に笑ってバリケードは言い放った。

「俺は短気なんだ」

あまり待たせるなよ、との意を含んだ言葉にスタースクリームもまた笑う。

「待つ気など無いくせに」

そう言い捨て、バリケードの身体を離し、スタースクリームは一気に飛び立った。遠くなる機影を眺めながら、バリケードは立ち上がる。そしてすばやくトランスフォームする。
上手い具合に人目に付かない場所であったとはいえ、流石に戦闘機は目立ちすぎる。直ぐにこの場から離れなければならなかった。そして新たに適当な車をスキャンし直すべきだろう。ボロボロのポリスカーはそれなりに目立ってしまう。

とりあえず、向かう先はひとつだ。全てをこの目で確かめたいとバリケードはそこへと向かった。

彼の言うメガトロンの死が真実ならば、最早バリケードを縛るものは何もない。彼に与えられた任務など、行う理由などないのだ。
スタースクリームがバリケードを迎えに来る理由など無いように。
お互いそれを理解しているのだから、とんだ茶番も良いところだとバリケードは笑った。





フレンジーだったものを持ち、火星のネメシスへと戻ったスタースクリームを迎えたのはサンダークラッカーだった。セイバートロンと繋がったスペースブリッジからやって来たらしい彼を見るのは、一体何百年ぶりだろうか。
慌てた様子で駆け寄ってくる同機型に、珍しくスタースクリームはほっとした気分になった。彼は愚かだが、恐らく最も自分に忠実だ。
仮初めでなく、真実首領となった事を告げると、戸惑った様子を見せたが軽く首を捻ってやれば大人しく受け入れた。
我が主、と言うサンダークラッカーにスタースクリームはフレンジーだったものを放り投げる。

「解析しろ。すぐに復元に取り掛かる」
「分かりました。しかし、少し休まれた方が良いのでは」
「・・・そうだな」

サンダークラッカーが支えるように機体に手を添えるので、スタースクリームは遠慮無く身体を預けた。損傷はあまり無いが、バリケードに力を与えたお陰でややエネルギー不足になっていた。無駄な力は使いたくない。

相変わらずな人だ。
サンダークラッカーはスタースクリームを支え歩きながら思った。懐かしいというより、変わらないなという思いが強い。彼は何時まで経っても、何があっても彼のままだ。離れていた長い年月を感じさせない態度に嬉しくなる。
彼の言葉通りなら、メガトロンは真実死んでしまったという事になる。ディセプティコンである以上、サンダークラッカーの主はメガトロンだった。たとえ、最も慕っている相手が違っていようとも。
ロード。マイロード、スタースクリーム。
その言葉を口にした瞬間、何かがぴたりと嵌ったような気がした。

預けられる身体に添えた手をゆるりと動かす。掌にあたる傷の多さにそっと憤る。彼に傷は似合わない。早く治してしまわなくてはいけない。
そうして傷の具合を見ようと、歩きながらサンダークラッカーはスタースクリームの身体に掌を這わせた。意図するところを分かっているのだろう、スタースクリームは特に反応することなく、サンダークラッカーの好きにさせていた。
そうしているうちに背中に触れると、他のものとは明らかに違った様子の傷痕があった。
爪痕だ。触れるだけで分かる特徴的なそれに、サンダークラッカーはある男の姿を脳裏に浮かべ、不快な気分になった。
そして居ない事を訊ねようとしてやめた。共に居ないということは、結局そういう事なのだろう。そうであれば良い、とひとり納得し、早く消してしまいたいと思った。

辿り着いたネメシスのブリッジの司令席にスタースクリームを座らせる。ずっと彼はここに座っていたのだろう。仮初めとして。しかしこれからは真実彼の席だ。
サンダークラッカーはそっと彼の前に傅いた。

「マイロード」

見上げた顔は誇らしくありながら、どこか憂いを帯びているようも見えたが、サンダークラッカーはその理由を考えないように努めたのだった。





FIN