夢をみた
やまなし、おちなし、いみなし。メガ様は美しい。スタスクは妄想癖あり。でも格好良い。ギャグです。





スタースクリームは仮初めの玉座に座るメガトロンを見た。肩肘を付き深く腰をかけ、男は微動だにしない。
常にある威圧感は無い。アイセンサーだ。休止状態を示すそれは、暗く沈んでいた。
薄暗い部屋にあって、メガトロンの機体は鈍く輝いている。冷たく燃える赤い光が双眸に無いせいかまるで彫像のようだ、とスタースクリームは思った。
ほんの僅かな光を受けて輝く銀色の機体は、重厚で荘厳な雰囲気を醸し出している。それは正に一個の美術品だった。
美しい。スタースクリームは素直にそう感じた。スパークが疼いた。

スタースクリームは美しいものが好きだ。愛おしさすら感じる。
美しいものは強い。強いから美しいのか、美しいから強いのか。彼の感じる美は常に強さと共にあった。
彼が科学を愛するのもそれが強く美しいものだからだ。この世界の全ては科学によって証明できると彼は信じている。彼の優秀な論理回路が出した解だ。全ての礎であり、揺ぎ無き支柱である。
そしてスタースクリームは当然、己の事を美しく強いと思っている。それは彼の自惚れを抜きにしても事実だった。彼は実際とても強く賢く、見る者を惚れ惚れとさせる姿をしている。

ほう、と小さく呼気を吐く。玉座の主を見つめるアイセンサーにはどこか恍惚とした光が浮んでいた。

この銀色の美しく強い生き物こそ、己の主に相応しい。そして同時に排除すべきものでもある。全ての王と成るべきは己なのだ。いずれそうなるのは己なのだ。
想像する。その瞬間を。彼の優秀な論理回路はとても柔軟で、どのようなシュミレートも可能だ。
メガトロンは確かに素晴らしい。彼が唯一固執するあの男もまた然り。だからこそ、倒さねばならない。消えて欲しい。その全てを己に譲って壊れてしまえば良いのだ。
彼らの最後はきっと、至高の美に彩られるだろう。
スタースクリームはそれを想像すると、うっとりとした表情を浮かべた。
今はまだ時期尚早だ。いずれ機会は巡ってくる。正しき未来を創り上げる為に、必ずやチャンスは訪れる。世界はそうあるべきなのだから。

「閣下」
ゆっくりとした足取りで玉座に近付く。声は潜めながらも、わざとらしく足音を立てる。静かな空間にそれは高らかに響き渡った。
触れる距離に近付いても、メガトロンは目覚めない。それは信頼などというものではないとスタースクリームは知っている。警戒などする必要がないのだ。
それはスタースクリームの自尊心を深く傷付けるものである。が、同時に誇らしくもあるのだ。部下に怯えるような者は主に相応しくない。
己の叛意をメガトロンが知らない訳がないのだ。スタースクリームは隠しておらず、ディセプティコンではその野心の強さを知らぬ者はいない。しかしメガトロンは彼を傍に置き続けた。
「閣下」
再び声をかける。今度は起きる気になったらしい。銀色の彫像が動き出す。ゆっくりと双眸に光が灯る。それはすぐに苛烈な光を取り戻したが、スタースクリームはその前に灯ったまろやかな光を見逃さなかった。

「・・・スタースクリームか。なんだ」
平常となんら変わりのない、低く不機嫌な声が響く。その声を初めて聞いた者は恐怖に震え、腰を抜かすだろう。初めてではなくとも、ほとんどトランスフォーマーを平伏させる力を持った声だ。
しかしスタースクリームは違う。優雅な所作で一礼をし、余裕の表情で口を開いた。
「良くお眠りのようでしたが、自室でお休みされた方が宜しいのでは」
「貴様に関係なかろう」
「確かに」
「まさか用件はそれだけとか言うつもりか」
ぎろりと睨みつける赤い光に、スタースクリームは一瞬怯えを感じたがすぐに消し去る事に成功する。軽く肩を竦め、そうだと肯定の意を示す。
貴様、と唸るメガトロンだが、手を出す様子は無い。スタースクリームは彼の機嫌が良いのだと知っていた。寝起きは大抵機嫌の悪いメガトロンだが、たまにこういう時がある。彼はそれを察するのに長けていた。
「余計な事をしましたか」
気の利いた風な事を言えば、メガトロンは軽く笑った。
「かまわん」
そして立ち上がり、歩き出す。その後ろをスタースクリームが続いた。自ら扉を開き、廊下に出る。進む事に喧騒が大きくなった。恐れ慄き平伏するディセプティコンの兵士らを一瞥もせず、まるでそこに無いものであるように二人は司令室への道を進んだ。

「今現在、一番苦戦している区域はどこだ」
「さあ」
「そのくらい把握しておけ、この愚か者め」
「そんなこと必要ないでしょう」
司令室に居るあいつに聞けば良いんですよと言うスタースクリームに、メガトロンはもう一度愚か者と罵った。
「まあ、良い」
それだけで特にお咎めもなく、スタースクリームは本当に彼の機嫌がとても良いのだと思った。そして口に出す。
「随分ご機嫌が良いようですが、何かありましたか?」
「・・・夢を見た」
「夢・・・記録のフィードバック現象ですね」
返ってきた答えは意外なものだった。
つまりメガトロンはスリープ中に過去の記録を見て、機嫌良く目覚めたという訳だ。どのような記録かなど、聞かずとも分かった。あの男に関する事以外にはない。

司令室の前に着くと、扉が勝手に開いた。
そつの無い事だとスタースクリームは思い、スパークの内で悪態を付いた。
「メガトロン様」
モニターの前に居た男が立ち上がり、敬礼をする。それを一瞥し、メガトロンは先ほどスタースクリームに聞いた事を男に問うた。
男が答える。メガトロンは凶悪な笑みを浮べ、二人を残し司令室を出て行った。

「機嫌が良い」
「夢を見たんだとよ」
男の抑揚の無い声に、スタースクリームが呆れた声で答えた。
「おい、サウンドウェーブ。向かった場所にオプティマスは居るのか」
「確立は90%だ」
「全滅だな」
「仕方が無い。無能はいらない」
全くその通りだ。スタースクリームは不本意ながらも同意した。
綺麗なものは好きだが、醜いものは嫌いだ。無能な者は全てが醜い。そういう意味では、気に食わない男であるがサウンドウェーブは有能であり、スタースクリームの美的感覚に敵う者だ。いずれメガトロンを倒すと共に、この男を従わせてみせる。

中空を見つめにやにやと笑うスタースクリームを見、サウンドウェーブはこれさえ無ければと溜め息を吐いた。





FIN