こんじきのかげ

オプメガ。オプ襲う→メガ様誘うな感じ。
オプティマスは一杯一杯になったらメガ様を襲っていれば良いです。






こんな生活も随分慣れてきたと、メガトロンは感じている。思えば、防衛長官就任時にはあれほど業腹に感じていた金持ちや老いぼれ共の言葉も、今はただの愚かな虫けらの囁く戯言と流せるようになった。いまだ厄介なのは確かだが、いちいち構ってやる気にもならない。
担ぎ上げた手前なのか、それとも他に理由があるのは知らないが、彼らが自分達からその地位を奪う事はないとメガトロンは考えていた。地位を与えたは良いが思い通りにならない二人を排除したいが出来ない。連中もそこまで愚かではなく、二人を降ろせば国民からの激しい糾弾を受け、軍部がクーデターを起こしかねない事は理解しているらしい。亡き者にしようにも、メガトロンとオプティマスの周囲には優秀な親衛隊が控え、なによりも純粋に二人は誰よりも強い。並みの暗殺者の刃などかすりもしない。手薬煉を引いている様は良い見物だ。
己の分を弁えられぬというのは哀れなものである。メガトロンは部下より上がってきた報告データを解析しながら、肘を付いた。執務室には今は彼以外誰も居らず、どのような態度であっても文句は出ない。もっとも、メガトロンに注意が出来る者は限られているが。

またどこぞの愚か者が恐れ多くも国家元首に刺客を放ったらしい。データは時間を追った詳細なものだ。首謀者から実行者は勿論、少しでも協力した者の名まである。流石というべきだろうが、あまりの詳しさに呆れすら覚えた。くそ真面目なフリをして、ずれたユーモアセンスを持つ男だ。この共犯者の愛人の元愛人の愛人の詳細なデータは、彼なりのジョークなのかもしれない。
実行犯は既にこの世には存在していないと聞いた。最後は書かれていない。そんな最早この世に居ない者のことはどうでも良い事だ。問題はそれが、国家元首の目の前で起こった出来事だという事だ。
あの国家元首がどのような気持ちであったか。メガトロンには良く分かる。あれは自分を殺そうとする相手にさえ、先をくれてあるような男だ。今回も捕まえ、処刑はせず生かすつもりだったのだろう。国家元首、オプティマス・プライムに同族であるものを殺すという選択肢はほとんど存在しない。敵には容赦無いが、彼に言わせれば同族は敵とはならないらしい。メガトロンには理解出来ない事だ。いや、メガトロンだけでなく、多くの者が理解出来ない事だった。事実、軍や親衛隊は秘密裏に、彼によって一度は許された暗殺者や政敵の多くの葬り去っている。メガトロンはその全てを把握していた。そうするように指示したのは他ならぬ自身だ。反意を示すものは、いない。

データにはオプティマスの状態については実に簡素な記述しかなかった。少し落ち込むも、その後は普段通りである、と。
良くある事、と言ってしまえばそれまでだ。しかしこの時、メガトロンはオプティマスの様子が気になった。
急ぎの仕事はもうあらかた終わらせている。そもそもメガトロンがデスクに向かって行う事など知れている。ほとんどの業務は堂々と部下に放りっぱなしにしていた。勿論、最後の確認だけは怠ってはいないので今のところ問題はない。部下の状態はメガトロンにとって知った事ではない。そんな事で直ぐに根を上げる者が多い中、続いているのは反骨精神の塊のようなあの副官のみだ。文句を言いながらもしっかりとする事はするので、メガトロンもそれなりに一目置いていた。本人には言ったことはない。
そんな副官が纏めたデータに目を通し、署名をするのが主な仕事だ。それも今、解析しているデータで終わる。極秘と厳重にロックを掛けられたそれはうんざりするような内容で、メガトロンは最後に許可と署名を記し転送した。送り先はこのデータを纏めた者のところだ。
恐らく数日後、データにある名の一部はスキャンダルで世間を賑わせ、一部はこの世の者では無くなるだろう。主犯格の男は捕まり、全てこちらの手にある情報を改めて吐かされる。さぞかし滑稽な事だろうと、メガトロンはその様子を想像し笑った。暗く冷たい笑みだ。その現場を見に行きたいと思ったが、顔を見れば手が勝手にスパークを抉り出してしまうだろうから、やはり止めておく事にした。諜報の連中を怒らせるのは得策ではない。

データを送り終え、メガトロンがオプティマスの執務室へ向かおうと立ち上がった時だ。一通のメッセージが届いた。
個人回線の中でも特に使用回数が多く、また厳重なセキュリティが掛かっているその回線は、他ならぬオプティマスと繋がっているものだ。出会った時から使い続けており、メガトロンの持つ回線の中で最も古いものでもある。
それは簡潔に仕事が終わったかどうかを訊ねるものだった。珍しいと思いながら、YESと返し、なんとなくだがもう一度腰を降ろした。凝ったものはいらないと、最高級のものでありながら簡素な椅子がメガトロンの重量を受け止める。
そちらへ行くというメッセージを受け取ると同時に執務室のドアが開く。目が合った。ぞくりとしたものがメガトロンの感覚回路をすり抜けていった。そのアイセンサーに宿った光は戦場のものと似ている。今ではもうほとんど見ることの出来ない、慈悲も許容もない怒れる獣の金色の光の残像をそこに見た。

「オプティマス」
メガトロンは静かに声をかけた。彼の後ろでドアがシュンと小さい音を立て閉まる。それを合図に歩き出す。酷くゆっくりとした歩調でもって、オプティマスはメガトロンへと真っ直ぐに向かった。
妙に長く感じた時間は、だけれどもたかだか執務室のドアからデスクまでの距離だ。実際はどれほどゆっくりと歩こうとも短い。
正面に立ったオプティマスをメガトロンは見上げた。黄色いアイセンサーの光がじっと自分を見下ろしている。
「オプティマス」
もう一度名を呼ぶ。様子のおかしいのは明らかだ。それが何に因るものなのか、メガトロンは知っている。気になってこちらから向かおうとしていたのを、先を越されただけの話だ。
メガトロンはドアのロックを掛けた。セキュリティは最高のものを。国家に関わる非常事態でも無ければ誰も開けることは許されない。勝手に開ける権利を持った者は二人共室内にいる。
見下ろす瞳に宿るものを感じ、メガトロンは笑った。そして悟る。件の刺客を葬ったのは他ならぬオプティマスなのだと。誤ったのか、それとも誰かを庇ったのか、本意では無かったのだろう。それは間違いでは無いと言ったところで、彼は聞き入れはしない。彼の憎むべき短所だ。だが、愚かしい長所でもある。

メガトロンにはそんな彼の生き方を変えてやろうと思っていた時期もあった。長くある内に、それは全てと引き換えにしなければならないのだと知った。オプティマスを自由にするには彼を取り巻く全てが邪魔なのだ。それはきっと自分も含めて。
全ての生命の自由を謳う者が、それらにより自由を奪われているというこの矛盾。なんと愚かしい事か。それでもメガトロンはその茶番に付き合う事を決めていた。
何故か。
頭上より降りてくる指先が全ての答えだ。ゆっくりと崩れ落ちるように覆いかぶさる影と重み。全身に回された腕がぎりぎりと身体を締め上げる。聴覚センサーに掛かる熱を帯びた荒い排気。
「メガトロン」
確かな欲望を持って音になった自分の名前。なんとかして抱き締め返すと、首元に埋もれていた顔がゆっくりと彼の方を向いた。飢えた金色の光がうつくしい。
「オプティマス。こい」
誘いかけるようにメガトロンは赤いアイセンサーを細めた。横に収縮した光が弧を描く。 二人分の重みを受け、丈夫な椅子がぎしりと鳴いた。

激しく内部を犯されながら、メガトロンは満足そうに笑った。
全てを抱擁し、慈愛と寛容に満ちたオプティマス・プライムが唯一手荒く扱うのはメガトロンのみだ。誰にだって気を使い穏か優しく接し、時に厳しくもあるがそれは相手のことを思ってであり利己的な行動ではない。
常に相手の為に動くオプティマスが、自分の為だけに動く。それを見る事を出来るのならば、茶番にも付き合おうというものだ。
オプティマスはメガトロンを良く二の次にする。情勢が立て込んでいる時などは、かなり長い期間まったく顔を見合さない事もある。こちらから会いにいけば嬉しそうにはするが、自分からは来ない。
オフにメガトロンがオプティマスを押し倒し、さあこれからという時に、連絡があるとお構い無しに雰囲気をぶち壊して出て行く。
メガトロンは知っている。これが彼の愛し方なのだと。それは些か忍耐のいる事だ。悪く言えば蔑ろにされているといえる。だがオプティマスにとって何をしても良い相手というのは、奇跡のような存在なのだ。長く長く傍にいるメガトロンには分かる。そして彼らの傍に長くいる者達も知っていた。どれほど、オプティマスがメガトロンを大切に思い、愛しているのかを。

内部を蠢く荒々しいパルスに翻弄されながら、メガトロンはオプティマスのその不器用な愛にしばらく溺れる事にしたのだった。





それで良いと思っていた。
しかし彼は自分で思っていたよりも、貪欲であった。
囁く声が誘う。解放せよ、と。





FIN