小鳥と猫の物語:ディセップの日常風景
一匹?と二羽の話。フォールン様の扱いがちょっと酷いです。






サウンドウェーブは今日も天井に張り付いていた。動くのは苦手では無いが、嫌いなのでそこが彼の定位置だ。巣を見上げれば何時もそこに居る。居ない時は年間で数えるほどしかない。
キュピーッキュピッー!という甲高い声に、彼は目覚めた。相変わらず朝から煩い。黙っている事が出来ないのだろうか。見下ろせば、部屋の中心にある鳥族の巣でベージュ色の丸っこい毛玉がくるくると回っている。隣には早朝の狩りの成果だろう、大きなバッファローが転がっていた。褒めろと言っているのが、サウンドウェーブには手に取るように分かった。巣で丸まっている水色の毛玉が嬉しそうにそれに応える。更にけたたましい声が響き、サウンドウェーブは一本の触手を伸ばし、ベージュの頭を軽く叩いた。
「このサウンドウェーブ!何しやがる!」
「朝から煩い、スタースクリーム。サンダークラッカーも注意しろ。…起きるぞ」
何が、とは言わなかったが、理解したようで彼は喚くのを止めた。水色のサンダークラッカーもバツの悪そうな顔をして、サウンドウェーブに頭を軽く下げた。
毎日の事なのでいい加減学習しろと思うが、最早習慣になっている気がする。あの耳障りな声も無ければ無かったで、起きた気がしないのは事実だった。
スタースクリームはしばらく触手を突いていたが、すぐに飽きたか、腹が減っていたのを思い出したのか、餌であるバッファローに向かった。大人しく待っていたサンダークラッカーに「食うか」と言い、二羽は仲良くそれを突き出す。

しばらく二羽の食事風景を見ていると、先に終わったのかサンダークラッカーが毛ぐつろいを始めた。彼はスタースクリームに比べ小食である。基本巣から動かないのだから、当然だ。スタースクリームはまだ食べていて、彼が食べ終わるまでサウンドウェーブは食事をしないので、辺りを見回した。
隅っこの方で丸まっている黒い毛玉が居ない。朝は大抵二つ転がっているのだが、今日は無かった。毛玉のうち、でかい方はどうでも良いが、小さい方が心配だ。自分では狩りを学ばせる事が出来ないからと大きい毛玉、バリケードに預けたは良いが、やはり拾って帰った手前愛着は持っている。多分、触手で遊んでくれる人、というくらいの認識しかないだろうけど。必死でじゃれるラヴィッジの可愛い事と言ったら。拾って良かったと、サウンドウェーブは育児放棄したくせにしみじみと感じていた。
「おい、ニヤニヤ何を妄想してやがる」
そうして黒い毛玉達の定位置を眺めていると、羽音が聞こえた。目の前で器用にスタースクリームがホバリングしていた。足には食い散らかされたバッファローをしっかりと掴んでいる。
「早く、足場を作りやがれ」
「なんのことだ」
変態と言う言葉が確かに聞こえたが、聞こえないフリをしてサウンドウェーブは触手で止まり木を模したものを作った。何本かを束ね、獲物を置く為の台も作る。血や内容物が付くのであまり台は作りたくないが、大きい獲物の時は仕方が無かった。
台に餌を置き、スタースクリームが止まり木に羽を休めた。
しばらくすると彼は台に置いた餌を一口大に千切り、サウンドウェーブの口元へと運び出した。それを口で受け取り、サウンドウェーブは食事を開始した。

サウンドウェーブが動かないのは面倒以外にも理由があった。その一つにエネルギー効率の悪さがあった。彼単体では問題が無いのだが、彼らの抱える厄介事が問題だったのだ。ディセプティコンには自力で餌を取れないくせに、煩くて偉そうなのが居て、サウンドウェーブは彼の為に触手を使ってエネルギーを送る役目をリーダーにより仰せつかってしまったのだ。大切な人だから、帰ってきて死んでいたらお前ら全員殺すとまで言われては、残された彼らにどうする事も出来ず。サウンドウェーブは摂取したエネルギーを精錬し、彼に送る為、あまり動けなくなってしまったのだった。彼が取る食料は膨大だが、彼自身に回されるものは実に少ない。それを知っているから、スタースクリームは大人しく、彼の口元まで食べやすいようにして持ってやるのだった。はじめは冗談じゃないと反発したが、自分がアレに繋がってエネルギーを送れと言われたら、何も言えなくなった。アレよりサウンドウェーブの方が百倍マシだ。

傍から見れば甲斐甲斐しく見える光景に、巣で毛ぐつろいしていたサンダークラッカーはほんわりと目を細めた。彼はどうもぼんやりと、また思考回路が緩く出来ているようで、二匹を見て仲が良いなぁと思い、ついでに自分も幸せになっているのだ。お腹が一杯なのも、幸せ度に拍車を掛けていた。腹の下に収まる卵を良い位置に収まるようにし、サンダークラッカーは幸せな気分のまま、うとうととし出した。
この卵が自分達のものだったら、もっと幸せになれたのに。孵る時を夢に見、彼は眠りに落ちていった。

二羽が食べた残りを全てサウンドウェーブに与え、スタースクリームはようやく一息付いた。これはとんだ重労働だ。全てあのじじいのせいだ。どうして孫のところへ行かないのか、全く厄介すぎる。
「おい」
何度目か分からないやり取りだ。サウンドウェーブの耳元で囀る。
「なんとかならねぇのかよ」
エネルギーに毒物を混ぜるとかよ。
「やっている」
しかししぶとすぎる。
スタースクリームに言われるでもなく、サウンドウェーブは色々な策を講じていた。しかしどれも上手くいった試しはなかった。あからさまな事は出来ない。食事に毒物は定番で一番効果的に思えるのだが、全然効果が上がっていなかった。
「どんなけ丈夫なんだよ!死にかけの老いぼれのくたばりぞこ無いのくせに!」
「最後の手段はオプティマスだが…呼んで始末してもらってはメガトロン様にバレて困る」
「あーあ。勝手にこっち来てちゃっちゃとヤッてくれないかな」
オプティマスならメガトロン様も何も言えないのに。
スタースクリームはサウンドウェーブを毛ぐつろいしながら呟いた。毛は無いが、器用に嘴で汚れを啄ばみ取っていく。サウンドウェーブも同じ悩みを抱くものとして、触手を操り、ベージュの毛並みをゆるゆると撫でてやった。

「ところで」
サウンドウェーブが体内でエネルギーを精製する為にまどろみ始めた頃、止まり木で自分の毛ぐつろいをしていたスタースクリームが思い出したように口を開いた。
「なんだ」
「バリケードが昨晩からラヴィッジ連れて出ててな。ジャズ達と狩りをしてるから、帰って来るのは今日の昼以降になるってよ。伝言頼まれてすっかり忘れてたぜ」
だから心配するな、だとよ。
「そういう事は早く言え」
「るっせ。伝えたからな、この親馬鹿野郎」
ばさり。大きな羽音を立て、スタースクリームは止まり木から飛び立った。サウンドウェーブの目の前を大きく旋回してから、綺麗にサンダークラッカーの居る巣へと降りる。ダイナミックでスピーディな急降下なのに、降り立つ時はふわりと柔らかい。良いものを見た、とサウンドウェーブはひとり笑う。性格などは二の次にして、彼の立ち居振る舞いは良い目の保養になる。動けないから尚更楽しみだった。彼、だけでなく、ここを根城にしている彼ら全てに言えることだが。
仲良く寄り添う水色とベージュの二羽を見ながら、サウンドウェーブもしばしの眠りに付いた。目を覚ませば待っているのは悪夢だが、今度は黒い二匹が目を楽しませてくれるだろう。

そうして夜、サウンドウェーブはラヴィッジからのお土産である魚を食べ、触手三割り増しサービスで彼らをじゃらした。嘴や牙、爪は痛いが、そんな事はどうでも良い。二匹と二羽の可愛いことと言ったら、その痛みすら気持ち良いと、少し危うい性癖に目覚めそうになるほどなのだから。





FIN