猟奇的な彼氏
※音波→ブロキャ。自覚無し。音波が変態です。
「コンドル、バズソー、フレンジー、ランブル、ジャガー、イジェクト」
サウンドウェーブは自室に入ってあるものを抱えたまま、カセットロンを全て表に出した。そして一言出て行けと命を下し、沈黙する。
フレンジーは何故、と抗議の声を上げようとしたが、ランブルがそれを止める。コンドルとバズソーはサウンドウェーブの上を一度旋回し、飛んで出て行った。ジャガーが彼を何度も振り返りながらもその後に続く。
「ランブル・・・」
「行くぞ」
なおも渋る様子を見せるフレンジーを引き摺りランブルは部屋を後にした。
「クソッ!アイツのせいだ!」
閉まった扉を背に小声で悪態を付く。
サイバトロンとの戦闘で、あの男と会うとサウンドウェーブは変になる。明らかに常にない様子を見せるのだ。それは帰ってきてからも続き、ある時はモノに当り散らし、ある時はエネルゴンを飲みクダを巻く。またある時は適当な人物(と言っても相手は選んでいるようだ)を捕まえて愚痴を吐く。
それらはまだマシな方で、本当におかしな時は自分達を外に出してしまう。ランブル達はひとりになったサウンドウェーブが何をしているか分からない。何も知らされず待たされるのはひどく不安が募るが、命は絶対だった。
「ランブル、行こうぜ」
先ほどとは逆にフレンジーが扉の前から動かなくなったランブルの手を引く。
「ああ」
引かれるままに歩き出す。
「アイツ、許さねぇ」
ぼそりと呟くと、肯定の意を示すように手を握る力が強くなった。
*****
サウンドウェーブは扉の外に完全に気配が無くなったのを確認し、手に収めたものを見た。
それは唯のラジカセだった。人間共の発電施設を襲撃し、サイバトロンの邪魔に合い退却を余儀なくされた時、目に付いたので思わず取って来てしまった。
あの忌々しいイカレサウンドの姿がブレインサーキットを過ぎる。アレが同種のサウンドシステムである事実はサウンドウェーブに取って認めがたい事だった。
その姿を思い出すだけで、手に力が篭る。手の内のラジカセがミシミシと悲鳴を上げた。
チガウ。サウンドウェーブは思った。あの男はこんなに容易く悲鳴を上げない。あの口から出てくるのは、自分を罵倒する言葉ばかりで、サウンドウェーブの望む言葉は決して吐き出さない。あの男の懇願や命乞い、悲鳴や泣き言などサウンドウェーブは聞いた事が無かった。
バキッと音を立て、ラジカセのスピーカー部分が歪にへこんだ。それをサウンドウェーブはじっとバイザー越しに見つめ、壊れない程度に加減した力で床に放り投げた。
ラジカセは二回ほど回転して転がり、そして止まった。その際にスイッチが入ったのか、壊れたスピーカーから男の声だと思われるものが流れ出した。ノイズの酷い、途切れ途切れの男の声は全く意味を成さないものなのに、妙に陽気に聞こえた。サウンドウェーブの苛立ちが一気に加速する。
ゆっくりと近づき、サウンドウェーブは脚を振り上げた。人間の作ったものだ。相当力加減をしなければすぐに唯の鉄くずになってしまう。
まるで優しく撫でるようにサウンドウェーブはラジカセを蹴った。爪先に触れた部分がへこむ。続けて同じような力加減で何度も蹴る。
徐々に形を変えてゆくラジカセに、異様な興奮を覚えサウンドウェーブは笑った。一度蹴る事に快感のパルスが全身を巡る。これではまるで交歓行為をしているようではないか。
「クククク・・・ハーハハハハハハハッ!」
サウンドウェーブはまるでブロードキャストと対戦している時のように大声を出して笑った。脚を振り上げる間隔が短くなる。快感が激しく強くなった。
「死ネッ!」
脚を振り下ろす。もうほとんど原型の残っていなかったラジカセが、サウンドウェーブの足の裏で無様に押し潰される。
その瞬間、サウンドウェーブは達した。マスクの下で上がった小さな悲鳴は、金属のひしゃげた音に掻き消された。
しゃがみ、唯の金属屑となったラジカセを摘む。
自分を愛しているなどと言うのならば、このラジカセのように破壊させてくれれば良いのに、とサウンドウェーブは思い、それを握りつぶした。
FIN