スロウワルツ;カインドオブブルー
相変わらず目指せBLなリジェとサンクラ。





サンダークラッカーは与えられた私室で、小さな通信機器を握り寝台に横になっていた。人間の通信機器に似たそれは、その機能の稚拙さもそのままであるがそれ故にサイバトロンの中で密かなブームになっているらしい。それをサンダークラッカーに渡した男の柔らかい笑みが自然とメモリーより呼び出された。少し頬が緩む。
不安定な電波による音声通信と、制限された文字のやりとり。もっと高度なものを作れる自分達にとっては玩具以下のものだ。

ピピピ、と電子音が小さく鳴り響く。
小さなディスプレイを覗くと、ふっと笑いが漏れた。
そこには就寝の挨拶と、夜空を称える旨の簡素な言葉が綴られていた。ただそれだけであるが、感情回路あたりに穏かな感覚を生み出す。
わざわざ伝えてくるくらいだ。今日の空はきっととても美しいのだろう。見てしまえば飛び立たずにはいられないほどに。

サンダークラッカーはしばらく想像の夜空を飛び回った。そしてゆっくりとした指先の動きで原始的な出力装置を押していく。力加減を間違うとうっかり壊してしまいそうになるところまで人間のそれに似せてあるあたり、作者の性質が窺い知れた。
カチカチと微かな音を立て言葉を綴る。
送信ボタンを押そうとして、サンダークラッカーはやめた。編集しなおして、文字を付け足す。

――おやすみ、リジェ。そんなに綺麗なら今度、・・・――
・・・今度乗せてやるから一緒に行こうぜ。その一文をサンダークラッカーは打ち込んでは消した。
別に大した意味は無い。ただ、綺麗だというならば月夜の散歩に誘ってみようかと思っただけなのだが、打ち込んでいると妙に恥ずかしくなってしまったのだ。体内を巡るオイルは少し熱を持ったような気がする。
その後もサンダークラッカーは何度か誘いの言葉を打ち込んでは消した。

「あーあ」
結局、誘いをかけることは出来なかった。ただ、それだけ綺麗なのなら飛んでみたい、と答えるだけに終わってしまった。
じっと手の中の機械を見て、サンダークラッカーはそっと溜め息を吐いた。そしてそれを頭の横に放り投げ、耐圧ガラスの向こうを見た。
そもそも光の届かない深海は朝も夜もほとんど変化が無い。変わることのない風景だが、彼が見れば綺麗だと言うだろうか。この海底の姿を初めて見た自分のように。いつか、見せてあげられれば良い。そう思いサンダークラッカーは自身をスリープモードへと移行させていった。

それから約一時間ほど経って再び電子音が小さく響いた。完全にスリープモードに入ったサンダークラッカーは気付かずに眠り続けている。
それは室内を淡く照らしていたがやがて消えた。
室内は再び静かな暗さを取り戻した。






FIN