スロウワルツ;ソーリーマイフレンド
少し進展BL。リジェの苦悩?





リジェは自室の寝台の上に蹲り、あんなものを見なければ良かったと激しく後悔した。
デスクに置いてある携帯端末からはあるメロディーが流れている。彼からのメール着信を示すそれが、今のリジェには酷く恐ろしかった。早く止まれ、と惨めな気持ちで願った。





サイバトロンの面々は地球の文化に深い興味を示す。それは文化だけでなく、自然や人そのものにも向けられ、地球人との友好的な関係を築くことに一役買っていた。
無論、そういったものに興味を示さないサイバトロンもいる。しかしそんな彼らも、徐々にではあるが地球に馴染んできている。強い望郷の念を持つリジェもまた例外ではなかった。

まさか私がこうやって皆と一緒にテレビドラマとやらを見る事になるとは。
テレトランワンの前に集まったサイバトロンの面々に紛れながら、リジェは大きなモニターを見上げ、ぼんやりと思った。
映し出されているのは何がそんなにツボに嵌ったのか、ほとんどのサイバトロンが大いに楽しみにしているテレビドラマだ。台所ロマン劇場というらしい。
リジェはまともに見たことは無いし今回も見るつもりは無かったが、直前まで話していたクリフにほとんど引っ張られるように連れてこられここにいる。
「一緒に見ようぜ!今回絶対見逃せないんだ!」
そう満面の笑みで腕を引かれ、リジェは途中から見ても面白くは無いだろうとは言えなかった。
案の定、話の筋がさっぱり分からないリジェは話に集中出来ずにいた。おおっ!とかああっ!とか周りのリアクションを観察している方が面白い。どこから出したのか、トランスフォーマーサイズのハンカチを握り締めている警備員など傑作だ。
しかしそれにも直ぐに飽きるだろう。そうなればそっと自身の能力を駆使して抜け出そう、そう思い、再びなんとなくモニターに目を移した。

おおおおおっ!っと一際大きな歓声が起きる。モニターの中では先ほどまでお互いを罵り合っていた男女が熱烈なラブシーンを繰り広げていた。サイバトロンの面々は身を乗り出したり、拍手をしたり、口笛を吹いたり、顔を覆った指の隙間から覗いたりして大いに盛り上がっていた。
リジェはひとりそんな周囲をどこか遠くに感じていた。体内を巡るオイルが急速に冷えていくのを感じた。人間ならば真っ青になっているだろう。口元を押さえる。気分が悪い。吐きそうだ。早くここから離れないといけない。リジェはそっと出口へと向かった。誰にも気付かれないように細心の注意を払いながら廊下に出、そして自室に向かって駆け出した。

自室に着いたリジェは閉まった扉を背に、ずるずると座り込んだ。口元を押さえ、蹲る。
何故、と問うたところで答えはひとつだ。優秀なブレインサーキットは本人の感情を無視してあっさりと解を導く。モニターに映るラブシーンを繰り広げる男女が、自分と彼に変換された理由などひとつしかない、と。
それを理解した瞬間、リジェが感じたのはただひとつ、恐怖だった。困惑でもなく、あたたかささやわらかさでもなく、羞恥でもなく、ひたすら恐ろしい。
デストロンに恋をした。それが知られたらどうなるのか。ぞっとした。そして真っ先にそんな事を考える自分に恐怖したのだ。何よりも先に、恋したはずの人の事を考えるよりも先に、保身を考えた。
「すまない。すまない、サンダークラッカー」
リジェは自分の身を抱き、小さく呟いた。
こんなはずでは無かったのに。後悔したところで何も変わるはずもなくただ益々惨めになるだけだと分かっていても、リジェは謝罪を口にすることを止められなかった。





FIN