ハッピーバレンタイン
CPごちゃまぜ。リバというか受攻不定。音波サンクラ、メガコン、スタマイをベースに書いてみたかった組み合わせを書いてみた。






今度こそは。
周りを囲んだ大量のエネルゴン菓子が仄かに発光し、咽そうな甘い匂いを漂わせる中、サンダークラッカーは加工用エネルゴンを器用に、そして丁寧な手付きで扱いながら思った。
今度こそはメガトロン様も喜ばれるはずだ、と。
前回の失敗がブレインサーキットを過ぎる。あれは本当に辛かった。折角の力作を台無しにされたことも哀しかったが、それよりも何よりも全身にこびり付いて中々取れなかったクリーム状エネルゴンの感触と甘い匂いが一層の哀愁を誘ったものだった。皆に笑われたのは勿論のことで、最早反論する気力も無かった。
くるり、とカップ型にエネルゴンを流し込みながら遠い目をし、サンダークラッカーは力なく笑う。そして常に無いほど真剣な顔をし、カップ型を睨み付けた。
「今度こそはメガトロン様に美味いと言わせてみせる」
今作っているのはクリームを使っていないし、甘さも抑えに抑えた。上等の蒸留エネルゴンを使い風味もばっちりである。きっとメガトロンは用意していないだろうから、二人分作った。
何に本気で燃えているのか、という突っ込みをする者は誰も居らず、サンダークラッカーの暴走を止める者も居ない。
見えない所から見ている者は居るが、その人物はモニターを見て満足気な様子なので止めることはしないだろう。そもそもサンダークラッカーをけしかけたのは彼である。自分の直属の配下の外見と性格を使ってこの日をアピールしたのだ。カセットロンにバレンタインだからチョコを作ってくれと頼まれて断れるサンダークラッカーではなく、見事目論見通りになった。少し作りすぎではないだろうか、とかちゃんとその他とは違うものを貰えるのか、という不安はあるが。後、真剣過ぎて少し引いた。

様々なエネルゴン菓子に囲まれ、サンダークラッカーの挑戦は続いた。しかし彼は知らない。メガトロンがバレンタインなどという行事に興味が無いということを。



サンダークラッカーが基地の一室に篭り菓子作りに精を出している頃、メガトロンは司令室にいた。隣にはスタースクリームが居り、次のエネルギー強奪の為の作戦を練っているのか、それなりに真面目に議論を交わしている。自然エネルギーにするか、人工エネルギーを狙うか。幾つかピックアップした場所の詳細データを並べ比較していく。自然エネルギーは量も質も上等で莫大なものだがその制御が難しい。人工のものは質量共に大したものは無いが、ごく稀に素晴らしいものがある。一長一短である。
スタースクリームは今回ある地点の自然エネルギーを上げ推している。どうやら彼の学者魂を揺さぶるものがあるのだろう。常に無い熱心さでその場所を襲撃すべきだと主張していた。
メガトロンはそんな彼の様子に、まあ今回はよかろうと思った。本当はとある工場で精製されているエネルギーに興味があったのだが、そう急ぐものではない。うむ、と頷き更なる詳細データを呼び出そうとした時、モニターに別の映像が割り込んできた。
「やあ、メガトロン」
爽やかな笑顔で何でもないようにデストロン司令部のモニターに写ったのはサイバトロン総司令官コンボイその人だった。
スタースクリームはぽかんと口を開けて固まったしまった。メガトロンはその様子を横目で見、少し大袈裟に溜め息を吐いた。スタースクリームに対してではない。コンボイに対してだ。
「・・・どうやってジャックした」
低い声が響く。正気に返ったスタースクリームが思わず背筋を伸ばしてしまうような声だった。怒っている。それもかなり。スタースクリームはそう感じた。
そんな怒気もモニター越しの男には通じないのか、暢気に我々もやるものだろうと何時ものように笑った。
メガトロンが額に手を当て、深く呼気を吐き出した。緊張が緩む。
「スタースクリーム」
「ななななんです?」
「後でサウンドウェーブに・・・いや、いい。わしが言う」
「はぁ・・・」
「で、何のようだ。コンボイ」
そのまま普通に会話し出す二人に、スタースクリームは自分が出て行く機会を失ったことを知った。しまったと思ってももう遅い。今、出て行こうとすれば確実に引き止められる。恐らく、二人共に。二人が会話に集中し出してから、こっそり抜け出すしかないが、それまで自分の精神回路が耐えられるか。ぞっとした。誰が好んでこの二人の会話を聞きたいものか。
スタースクリームは諦めなかった。もしかしたらという可能性にかけてそろりそろりと後退していく。成功率の演算結果は0%に近かったが、1%でも可能性があるならやるしかないのだ。
「おや、どこへ行くんだ?スタースクリーム」
そして1%は所詮1%だと思い知らされるのだった。まだ話は終わっておらんぞ、というメガトロンの言葉にスタースクリームの羽ががっくりと垂れた。今日は自分の意見を聞き入れて貰えたし、珍しい自然エネルギーの研究も出来そうだし、良い日だと思っていたがどうやら違っていたらしい。厄日だ。

いじけ出したスタースクリームにメガトロンとコンボイは揃って首をかしげ、まあスタースクリームだしと放っておくことにした。二人で話を続ける。
「で。貴様らは明日バレンタインパーティとやらをするから、わし等に動くなと言う訳か」
「ああ。皆楽しみにしているのでな。お前たちがどこかを襲撃なんてして水を差されたくないのだよ」
「だったら放っておけば良いだろう」
「そんな事、我々が出来る訳が無いだろう」
「馬鹿め。それこそ、わし等が出来る訳がなかろう」
苛立った口調を隠しもせず、メガトロンはばっさりとコンボイの要求を斬り捨てた。どこに自分達が遊びたいから悪党に悪事を働くなという正義の味方がいるのだ。いや、目の前に居た。

しばらく沈黙が流れる。すっかり忘れさられたスタースクリームは今が逃げるチャンスだというのに、コンボイの返答が気になってその場に留まっていた。
ふう。コンボイが溜め息を吐いた。やれやれ、と首を振る。
諦めるか、とスタースクリームは思った。メガトロンは嫌な予感がブレインサーキットを過ぎった。
「メガトロン。私はなるべく穏便に済ませたいのだよ。我らサイバトロンの戦士は明日のパーティを非常に楽しみにしている。それはもう、今からお菓子を作ったり、飾りつけをしたりな。おお、そうそう。数日前からプレゼントを選んでいる者もいたな」
にっこりと笑いながら話すその姿が恐ろしい。妙な威圧感がモニター越しに伝わってくる。スタースクリームはちらりとメガトロンを見た。灰銀の顔が青みかかっているように見えるのは気のせいだろうか。何時もなら笑えるが、今は笑えない。
「私は彼らの落胆する姿を見たくはないのだよ、メガトロン。お願いだ。明日は大人しくしていてくれないか」
言っている事は至極まともな事だ。しかしこれはお願いの名を借りた脅迫だ。きっと誰が聞いてもそう言う。だって顔が笑っていない。声が低い。誰が言い出したんだろう。こんなヤツが正義の総司令官だなんて。悪を脅す正義。スタースクリームはデストロンのトップになるとコイツを相手にしないといけないのか、と思うと少し愁傷な気持ちになった。共倒れを願うくらいに。
「・・・」
「私は若輩者だ。哀しむ彼らを慰めきれないかもしれない」
怒り狂うサイバトロンを私は止めないけど、良いかい?
メガトロンとスタースクリームははっきりとそう聞いた。実際コンボイはそう言った訳ではないが、確かにヤツはそう言ったのだ!

「・・・まあ、もともと明日襲撃予定は無いからな。準備もあるし、仕方があるまい」
さっきまでノリノリで襲撃予定立てていたくせにそう嘯く破壊大帝に、ナンバーツーはやっぱり俺様がニューリーダーになるべきだとこっそり誓った。コンボイの相手は嫌だけど。ほんと共倒れしてくれないかな。なんでメガトロンはこんなのと付き合っているのだろう。マゾか。実はマゾだったのか。スタースクリームの思考は明後日に行ってしまった。
「おお!分かってくれたか。流石はメガトロンだ」
「貴様に言われたからではないぞ!」
「ハハハ。いやー、これで聞いてくれなかったらもうデストロンはバレンタインに縁の無い軍団だとテレビで言うしかないなと思っていたのだよ。襲っているのはプレゼントを貰えなかった腹いせだとね。ハハハ。いやいや、私達が言わなくても人間達がそう解釈したかな?ハハハ」
その言葉にメガトロンは一気に脱力した。なんて酷い事をいう正義の味方なのだろう。これが爽やかな笑顔で言う事か。
そして今まで黙っていたスタースクリームは一気に元気になった。
「おいこらコンボイ!俺様をもてない連中と一緒にするんじゃねーや!」
「おお。スタースクリーム、居たのか」
「お前が居ろっつったんだろ!このボケ野郎!」
「ん。そうかね?しかしスタースクリーム。お前は予定があるのか?」
「・・・あるに決まってんだろ!俺様を誰だと思ってやがる!」
「そうかそうか。だそうだぞ、メガトロン」
ニコニコ笑うサイバトロン司令官と、プリプリ怒るデストロン航空参謀の視線にメガトロンはブレインサーキットがジクジク痛むのを堪え、小さく呟いた。
「・・・勝手にしろ」
「ハハハ。ではな」
ブチン。小気味良い音を立ててモニターからコンボイの姿が消えた。残されたメガトロンとスタースクリームは顔を見合わせた。
「明日の予定は無しだ・・・行っていいぞ」
「・・・イエッサー」
メガトロンの声はどこか疲れていた。スタースクリームは大人しく司令室を出た。その背を見送ってメガトロンは恐らく一部始終を傍観していたであろう、情報参謀を呼び出した。どうして通信を妨害しなかったと聞いたところで、頭痛の元になるだけだろうから聞くのは止めておこうと誓った。



一方サイバトロン基地では、流石はコンボイ司令官!とサイバトロン戦士達が自分達のリーダーを大いに称えていた。そしてそれぞれ準備の為にテレトラン1の前から離れていく。楽しそうなその後姿を見ながら、コンボイは満足気に微笑んでいた。
平和が一番だ。彼は本気でそう思っている。
たとえ基地のあちらこちらから爆発音や悲鳴が響いていても、彼にとっては平和の象徴だった。



バレンタイン当日。
デストロン基地では前日に休日を伝えられていた為、遅めに起き出した新ジェットロンの三人がエネルギー供給室に向かった。そしてそこに大量に置かれているエネルゴン菓子とそれに群がるデストロン兵を見て首をかしげた。
「なんだこれ?」
「お菓子じゃね?」
「んなの見りゃあ分かるよ」
おおよそそれらは三つの山に分けられていた。その中の一つの前に陣取ってお菓子を頬張っているブリッツウィングにラムジェットが声をかけた。
「おい、ブリッツウィング。こりゃあ、なんだってんだ?」
「むぐ・・・ちょっと待て・・・むぐむぐ」
頬張っていた物を飲み込んで、ブリッツウィングがくるりと三人に向き直った。
「お菓子だけど?」
「いや、それは分かる」
「チョコ菓子だけど?」
「・・・そうじゃなくてな」
「ああっ!これな「サンダークラッカーが作ったんだってよ」
ブリッツウィングのセリフに割り込んで来たのはアストロトレインだ。手にしっかりお菓子を持っている。
「お前、人のセリフ取るなって。・・・それも美味そうだな」
「食うか?かなり蒸留エネルゴンがきついぞ。美味いけどな」
アストロトレインは小さく千切った欠片をブリッツウィングの口に放り込んでやりながら、三人を見てにやりと笑った。
「サンダークラッカーが?」
ダージが素早く反応する。
「おう。今日はなんでもバレンタインとやらの人間の行事の日らしい。フレンジーとランブルに強請られてついでだから俺らの分も、ってことらしいぜ」
そうして指をさす方には、テーブルを囲んで座っているサンダークラッカーとカセットロンの連中がいた。コンドルとバズソーを肩に止まらせ、膝にジャガーを乗せている。少し重そうだが、彼は笑っていた。
「バレンタイン?」
「おう。お、どうだった?」
「美味いけど、俺は甘い方が良いな」
ほれ、と言ってブリッツウィングが差し出すお菓子の欠片を口に含み、ちょっと俺には甘すぎるとアストロトレインは渋い顔をする。甘いのが苦手なら食わなけりゃあ良いのに、というのは蛇足だろうか、とラムジェットは思った。
「おっ!確かに美味いわ、こりゃあ」
スラストが両手にお菓子を抱え、ほらお前もと差し出してきたのでラムジェットもそれを受け取り口に入れた。甘くて美味かった。
「美味いな」
素直に感心しつつ、よくもまあこんなに作ったのもだとサンダークラッカーを見ながら思った。
「だろう!」
ラムジェットの肩にずっしりと重量がかかり、にこやかな声が聴覚センサーのすぐ傍で聞こえた。
「スカイワープ。てめぇ重いし、うるせぇんだよ。どけよ」
あからさまに邪険にしても彼は退くことはなく、肩口から伸ばした手でスラストの持っているお菓子をひとつ摘んだ。
「昨日遅くまで起きてなんかしてんな、って思ってたらこれだよ。朝起こされてびっくりしたぜ」
「起こされた?」
ダージがお菓子を摘まみながら話に加わってきた。
「おう。俺とスタースクリームな」
「ふーん」
感心なさそうにしているが、ダージの気持ちを知っているラムジェットは笑いたいのを堪えるのが大変だった。
「そういえば、スタースクリームは?」
そういえばいない。あいつは確か甘いものが大好物だったはずだ。
「朝っぱらから出て行った」
サンダークラッカーにお菓子を包んだのを貰ってな。そう言ってにやりと笑うスカイワープにああ、とそこにいる皆納得いった。
「なんつーかこっち来てから平和だねぇ」
しみじみ呟くアストロトレインにまあな、と同意を返す。
敵対するトップとその副官がそれぞれ恋人同士とかってどうなんだろう、と思わないでもないが、まあ、今日のところは美味いお菓子にありつけたので良しとしよう。ラムジェットはエネルゴンカップケーキ頬張りながら思った。



そしてサイバトロン基地では。
赤やピンクのハートがあちらこちらに飾られ甘い匂いが漂う中、サイバトロン戦士達がパーティーを楽しんでいた。

「さあ、アイアンハイド。私の手作りだぞ」
にっこりと素晴らしい笑顔で巨大なハート型エネルゴンチョコを片手にラチェットがアイアンハイドに迫っている。アイアンハイドは少し青ざめながらも嬉しそうな顔をしているので問題ないだろう、とマイスターは思い、見ないふりをした。
「司令官。これは私からです」
そして隣に立つ人に綺麗にラッピングした箱を渡した。
「おお。ありがとう。ではこれは私からだ」
作る時間が無かったので手作りでなくてすまないな、と言い、コンボイはマイスターに小さなチョコを渡した。
「これはどうしたので?」
「カーリーがくれたのだよ。皆に作り方を教える時に作ったものらしい。普通のチョコは無理でしょと言ってな」
「良いのですか?」
「うむ。私用に別に貰っているからね」
そう言ってどこからか取り出したチョコはコンボイの顔の形をしていた。
「いやー、凄いですね」
「いやいや、なかなか大したものだよ」

「インフェルノーーーーー!!!」
コンボイとマイスターが穏かな会話をしていると、最早お馴染みになってしまった呼び声が聞こえていた。二人は顔を見合わせ、ハハハと少し乾いた笑いを見せた。
「相変わらずだな」
「ええ」
声の方を見ると、どうやって作ったのか等身大チョコを抱えインフェルノに突っ込んでいるアラートが居た。あれを笑いながら受け止めるインフェルノは凄い。周りは一瞬驚いてすぐに目を逸らしていた。

「ダイノボット!つくった!ホイルジャックやる!」
また別の場所ではダイノボットがホイルジャックを囲んでわいわいやっていた。
グリムロックが何か茶色い塊をホイルジャックに渡している。スナールやスラージ、スラッグも同じようなものを持っている。あれはなんだろう。マイスターは思った。ちょっと食べ物と思いたくなかった。しかし彼らの上を飛んでいたスワープが持っているものを見て、認めざる得ない。彼のはちゃんとチョコに見えたからだ。
「ホイルジャック、明日生きていますかね?」
「うーむ。まあ大丈夫だろう。良い実験材料と思っているかもしれないぞ」
それは酷い。しかし有り得る。大いに有り得る。昨日のダイノボットの奮闘振りを知ってるマイスターは少しだけダイノボットに同情した。しかし自分がホイルジャックの立場だったら同情出来ないな、とは思っていたが。
「おうおう。お前たち凄いじゃないか。すまんな」
ホイルジャックも嬉しそうだし、まあ、良いのだろう。
そうして一見ほのぼのとしたホイルジャックとダイノボットを見ていると、グリムロックがもう一つ茶色い物体を持っているのにマイスターは気付いた。
「スワープ!」
「おれ、スワープ。グリムロック、なんだ?」
呼ばれたスワープがグリムロックの上空を旋回し、正面に降り立った。
「おれ、グリムロック!スワープ、これやる」
「いいのか?」
「いい。うけとれ」
「おれ、スワープ。グリムロック、ありがとう!」
おやおや。マイスターはコンボイを見た。彼も見ていたのだろう。二人で顔を見合わせた。
「流石のホイルジャックも驚いているようですよ」
「いや、私も驚いたよ」
「私もです」
「良い傾向じゃないか」
「全くです」

そんな喧騒の中、隅の方にいる二人がいた。
「リジェ。これを君に」
「ハウンド・・・」
「あまりこういったものは好きではないのは分かっているんだ。だけど私は君に持っていて欲しいんだ。その・・・似合うしね」
「いや・・・ありがとう。悪くは無いよ」
大きな鉢植えの花を抱えリジェが笑う。それを見てハウンドも優しく笑っていた。
ラブラブだねぇ、とマイスターは笑った。それにしてもよくもまあこんな騒がしい中で二人の世界に入れるものだ、と感心する。
でもこれは実に良い傾向だ。マイスターはこっそりとハウンドにエールを送った。

そうしてあちこちで起きている悲喜交々を見ていたマイスターに一通の通信が入ってきた。座標地点だけを伝えるそれに思わずマイスターは笑った。たった一人の為に新しく繋げた回線だ。名前が無くても誰からかはすぐに分かる。
「司令官」
隣に立ち柔らかく笑っている人に声をかける。
「ん?」
「少し席を外しても構いませんかね?」
問うとにっこりと笑い鷹揚に頷く。
「ああ、勿論だとも。ゆっくりしておいで。今日は休日だからな」
「ありがとうございます」
礼を言い、マイスターはこっそりとサイバトロン基地から出て行った。

「副官、嬉しそうじゃないですか」
いつの間にかコンボイの隣に来ていたブロードキャストがそう言い笑った。
「うむ。今日は家族の日であり、仲間の日であり、恋人の日だそうだからな」
「・・・ちょっと違う気がするけど、ま、いっか〜?ところで司令官は良いんですか?」
「何がだね?」
「今日は恋人の日でもあるんでしょ?」
「・・・」
「ちょっと今回強引だったから拗ねているかもしれませんよ?」
「・・・」
「今日は休日ですよ?」
「・・・・・・ブロードキャスト」
「はいな!」
「留守を頼む」
「イエッサー!」
ドスドスと音を立てて出口へと向かうコンボイに手を振りながら、おまかせを〜とブロードキャストは笑いながら言った。
「行ったかい?」
近付いて来るのはプロールだ。
「二人共ね」
器用にウィンクをするブロードキャストに笑い、プロールは言った。
「今日ぐらいはゆっくりして頂きたいものだな」
「恋人の日だもんねぇ」



とある座標地点。
「お待たせしたかい?」
「・・・俺様も今着いたところだ」
「ふふふ。そうかい」
マイスターはぽつんと岩場に腰をかけていたスタースクリームの隣に当然のように腰を降ろす。スタースクリームもそれを当然のように受け入れた。
「はい」
「なんだ?」
綺麗なラッピングが施された小袋を差し出され、思わず受け取ってからスタースクリームは訊ねた。
「ハッピーバレンタイン」
「お、おう」
にっこりと笑いながら言われた言葉にスタースクリームは顔を背けた。顔が妙に熱い。そしてサンダークラッカーから貰ったものを渡そうと思うのだが、恥ずかしさとプライドのせいで出来ない。
「あー・・・うー・・・あのな・・・」
そんなスタースクリームの様子が、マイスターは可愛くて仕方が無かった。笑いを堪えるのが大変だが、ここで笑うと拗ねてしまうのは目に見えているので我慢する。そして助け舟を出すのだ。
「お前さんは私にくれないのかね?」
「・・・」
「スタースクリーム?」
「お、お、おお前がどうしても欲しいんだったらやるよ!」
「ありがとう、嬉しいよ」
ぽいっと放り投げられた小箱を上手くキャッチしにっこりと笑って礼を言えば、スタースクリームはまたぷいっとそっぽを向いてしまった。
「俺様じゃないからな。サンダークラッカーのヤツがどうしても持って行けっていうから、持って来たんだぞ!」
「うん。そうみたいだね。それでも嬉しいよ、スタースクリーム」
「ってもう開けるのかよ!」
マイスターは受け取った小箱をすぐに開け、中身をスタースクリームに見せた。恐らくスタースクリームが大事に扱わないだろう事を予測してか、それとも偶然か、そこにはひとつひとつが袋に包まれたパウンドケーキが入っていた。少し形が崩れてしまっているが、美味しそうだった。
そして紙切れが一枚。
それを見てマイスターはとうとう声を上げて笑ってしまった。
スタースクリームを大事にしてやってくれ、と書かれた紙切れを見て、スタースクリームはあの野郎と叫んだ。



サウンドウェーブは自室にいた。
表面上は常の無表情だが、実のところ彼は少し焦っていた。攻勢に転じるか、このまま守勢でいくか。待ち人の性格を考えると少し無謀だったかもしれない。
もう少し待ってみよう。あと少しだけ、と結論付け、椅子に深く腰をかけた時、彼の優れた聴覚センサーが足音を拾った。そしてそれが誰のものであるのかを弾き出す。やはり自分の作戦は完璧だ。彼は思った。少し前に失敗かもしれないと思った事は無かったことにした。
コンコン、と控えめなノックに立ち上がる。自らドアを開けると、驚いた顔をしたサンダークラッカーが居た。
「どうした。入れ」
「お、おう。お邪魔します・・・」
自分の冷静を装った声も、サンダークラッカーのいつまで経っても弱気な声もどこかおかしかった。
モニターの前の椅子に座ると、前にサンダークラッカーが立つ。そのすらりとしたプロポーションにその性格がどうであれ、彼はジェットロンなのだと思い知らされ、サウンドウェーブはマスクの下で苦く笑った。
そんな自身の状態なのおくびにも出さず、問う。
「どうした?」
どうした、などと白々しい事だ。待っていたのに。
「あー・・・あのな」
サンダークラッカーは言いにくそうにしながら身体をくねくねしている。他の連中のそんな姿を見ればただ気持ち悪いだけだが、彼のは気になら無い。
「・・・あー・・・これ、やるよ」
恥ずかしいのかそっぽを向き、差し出された小さな箱。サウンドウェーブが今回色々巻き込んで欲しかったのもだ。
「口に合うかわかんねぇけどよ・・・あっ!でもフレンジー達は美味いって言ってくれたぜ」
白い頬を赤らめしどろもどろで色々言い募るサンダークラッカーの手を握り、サウンドウェーブは思いっきり引っ張った。バランスを崩して倒れこんできた彼の聴覚センサーの直ぐ傍で知っていると囁く。びくっと震える身体を抱き締める。マスクを開き、普段隠している唇を露にする。
「サンダークラッカー」
「サ、サウンドウェーブ・・・」
名を呼ぶと小さな声で呼び返す。その唇をゆっくりと覆った。



メガトロンは司令室のモニターの前、椅子にゆったりと腰をかけ大きな溜め息を吐いた。結局、コンボイの言いなりのような形で襲撃を中止してしまった。その事は昨日のうちに自分の中で決着を着けていたが、今日のデストロン兵士の浮かれようにむかつきがぶり返してきたのだ。
どいつもこいつも、まったく馬鹿ばっかりだ。デストロンもサイバトロンも。地球の文化に振り回されるとは情けない。そう怒ったところで、昨日スタースクリームに情けないところを見られているので説得力も糞もないのは分かっているのだ。しかし腹立たしい。そしてそ以上に情けない。
ちらりと机に置かれた小箱を見、メガトロンは再び溜め息を吐いた。
朝から甘い匂いを基地に充満させた犯人が、今日はバレンタインです!今度こそは食べてください!と渡してきたものだ。普段引っ込み思案でオドオドしているくせに、偶に妙に強気に出てくる。その強気を普段も持っていれば・・・と思っているうちに手の中に握らされ、そして彼はそそくさを去っていった。
まあ、連中の評判を聞くに美味いのは間違いないのだろう。食ってやるか、とメガトロンは小箱に手を伸ばした時、モニターに反応が出た。
「あーあー。メガトロン?」
「・・・また貴様か」
「またとは酷いじゃないか」
「昨日、今日と電波ジャックしておいて抜け抜けと言うな!」
「怒っているのか、メガトロン?」
「呆れておるのだ・・・コンボイよ。で、何の用だ」
「すぐ傍に居るのだが・・・出て来ないか?」
「なに?」
「ほら、周りの風景で分かるだろう」
「・・・ひとりでそこに居ろ」
「メガトロン。今日は恋人の日でもあるのだぞ」
こちらがどれだけつれなくしても無駄なのは分かっていた。メガトロンは降参と笑い、立ち上がった。
「待っているぞ」
そう言って切れたモニターから視線を机に向け、小箱を掴む。
「恋人同士が贈り物をする日、か」
ふっと笑い、司令室を出る。怒っていたり情けない気持ちになったのが、馬鹿馬鹿しくなった。
「まあ、こういうのもよかろう・・・今だけだしな」





FIN