ノイズミュージック

2010のセンチメンタルサウンドシステム二人






あー、空が青いねぇ。そう呟いたはずの声は酷いノイズ混じりだった。声帯機能がやられているのか、聴覚センサーがやられているのか判別が付かなかったが、ブロードキャストはどうでも良いと思った。ここには彼の生命を脅かすものはおらず、同じような屑鉄寸前のサウンドシステムが居るだけなのだから。
辛うじて救助信号は出せた。しかしサウンドウェーブも出している。サイバトロンが先に来れば二人は助かり、デストロンが先に来ると二体のサウンドシステムは一体になる。
随分と分の悪い賭けだとブロードキャストは笑った。死にたくはないな。サウンドウェーブを壊せてないし、彼以外に壊されるのはごめんだ。再びノイズ混じりの声で呟いた。

ブロードキャストの隣に転がっているサウンドウェーブは無言で空を見ていた。ろくな機能をしない視覚センサーに映るのは灰色の砂嵐と雷、偶に青い空だ。雲ひとつ無い。これだけ見事な青空なのに楽しげに飛ぶ鳥はいない。
聴覚センサーに酷いノイズが届いた。醜い音だ。排除したいと思ったがその機能は既に壊れている。酷いノイズの中から意味のある音声データを勝手に再構築してしまうサウンドシステムの能力が恨めしい。
中途半端な相打ちは碌なものじゃない。また隣のガラクタがノイズを発している。耳障りでむかついた。殴る為の腕が無いのが恨めしい。脚より腕の方を護るべきだった、とサウンドウェーブは先ほどの戦いの反省をした。
デストロンには救助信号を送ったがやめておくべきだったか、と思った。あの馬鹿は自分の手で倒すべきではないか。他の誰か、ガルバトロンやサイクロナスに倒させるのは少し腹立たしい。そこまで考えてサウンドウェーブは馬鹿馬鹿しいと思った。どうでも良いことだ。馬鹿ひとりの事など。

「なあ、サウンドウェーブ」
あれは唯の雑音だ。サウンドウェーブは反応を返さなかった。
ブロードキャストは上手く出せない音声に美声が台無しだと嘆いた。ちゃんと治るだろうか。このまま自分の美声が失われたら音楽の喪失にも等しい。返らない反応などまるでどうでも良いとばかりにぶつぶつと呟いた。

「なあ、サウンドウェーブー」
「サウンドーウェーブー」
「おーい。口だけのいかれサウンドーくーん」
しばらくひとりで呟いていたブロードキャストがサウンドウェーブに声をかけだした。サウンドウェーブが反応しないとしつこく繰り返す。勿論、常人では聞き取れないであろうノイズ混じりの声でだ。
普段からブロードキャストはその存在から全てがサウンドウェーブの神経回路を逆撫でし、結果冷静でいられなくなるのだが、この音も例外では無かった。
「黙れサウンドシステムの面汚しめ。人のセリフを取るな」
「ハハハ。ひでぇ声」
思わずと言った態で反応を返すと、どこか嬉しそうな波長がノイズに混ざる。サウンドウェーブはしまったと思ったが、もう遅いとも感じた。一度でも相手にしてしまうともう無視することは出来ない相手なのだ、彼にとってブロードキャストは。
「きれーな空だなぁ。でも何も飛んでないな」
何を言っているのか、サウンドウェーブには分かった。先ほど同じ事を考えた。そういえば、こんな時何時でも迎えに来たのは誰だったか。連中は自分を笑い、半壊のブロードキャストを笑い、そして。
連中には獲物を奪われる心配などしていなかったな、とサウンドウェーブは思った。
「なんでだろうな」
どうしてあのままでいられなかったのだろうか。皆いなくなってしまった。ブロードキャストが呟いた声にサウンドウェーブは笑った。
「今更何を言っている、馬鹿め」
「メガトロンがいなくなった。スタースクリーム。スカイワープ。サンダークラッカー。連中と何かとつるんでたろ。コンボイ司令官がいなくなった。ラチェットとホイルジャックがいなくなって変な実験の心配はなくなった。アイアンハイドもいなくなった。他にも一杯。いなくなっちゃったねぇ、みんな」
「そのうち貴様も消える」
「なにそれ。もしかして慰めてる?」
「呆れてモノも言えない」
「言ってるじゃん。ま、分かってはいるんだけどねぇ。なんでこうなっちゃったか」
全く馬鹿馬鹿しい。サウンドウェーブは相手をしてしまった事と、反応せざる得なかった自分に怒りをぶつけたくなった。
メガトロンは生きている、ガルバトロンとして。あの馬鹿三羽は消えて清々した。他の連中も死ぬ方が馬鹿なのだ。サイバトロンのような感情はデストロンには無い。
「地球で体験した平和が最終決戦を決意させた、なんてとんだ皮肉だね・・・あ、誰か来たみたい」

全くだ。スパークの内で皮肉だという部分にだけ同意をし、向かってくる機体がサイバトロンであることにサウンドウェーブは複雑な気持ちになった。





FIN