兄貴とトリプルコーン







「ちょっ!やべぇって!」
「こらっ!ダージ、スラスト!逃げるな!」
「馬鹿言ってんじゃねぇよ!俺は逃げるぜってぎゃーーー!」

あいつらは何をやっているのだろう。少し離れたところで行われている事にアストロトレインは心底呆れた。
サイバトロンとの交戦中でアストロトレインもそんなに余裕は無い。無いが、そのあまりの事につい目がいってしまう。
飛び掛ってきたサイバトロン副官を辛うじてかわし、蹴りをその頭上に落とした。が、それは交差した腕に阻まれ、彼の頭を砕くことは敵わなかった。
「クッ・・・」
それでもアストロトレインが上段から落とした踵だ。その腕はしばらく使い物にならないだろう。アストロトレインは笑った。獲物を甚振らんとする残酷な笑みだ。
そんな笑みを向けられて尚、コンボイの副官マイスターはにやりと笑ったのだ。アストロトレインは一瞬気取られ、いまだ腕の上にあった右脚を地上に戻した。

「何故笑う?」
相手の腕は使い物にならないと分かっているが、警戒を解かず銃を構え、問う。何時でも仕留める事が出来る自信を持って、余裕を滲ませた表情を作る。
ずっとそらされることのなかった視線がちらりと逸れ、マイスターは良いのかい?と笑みを深めた。
一瞬の視線の先はさきほど気になっていた馬鹿共が居た。サイバトロンミニボットと言われる通常のトランスフォーマーより小さな者達に囲まれ、苦戦している。ギャーギャーと叫びながら三人固まって右往左往している様は、もうどうしようもなく情けなかった。
どうやら飛べなくなっているようだが、それにしても。アストロトレインは思わず脱力してしまう。笑う顔に銃は向けたまま、大きな溜め息を吐いた。

「どうやら皆気付いていないらしいね」
どうだかな。あれだけ騒いでいるのに誰も救援に行かないので、気付いていないか、放っているか。後者の可能性の方が高いことをアストロトレインは知っている。正直構っていられないというのがデストロンだ。相変わらずの泥沼試合と化した戦場では、目の前の敵を倒す事と保身で精一杯だ。どこから何が飛んでくるか分かったものではない。

「おやおや」
「・・・何をやってるんだ、連中は」
身体の小さい者達にわらわらと集られている新ジェットロンの三人は、あれこそ正にフルボッコという有様だった。
「行かなくて良いのかい?」
再びそう言うマイスターに視線を戻す。
アストロトレインは鼻で笑った。
「お前をぶっ壊してからでも十分だろう」
「そうかい?私もそう簡単にはやられないと思うがね。腕だけが武器じゃないんだよ」
圧倒的不利な形勢にあってその態度。あの馬鹿共に見習わせたいものだとアストロトレインはアイセンサーを絞り、笑った。
「そいつはどうか「「「アストロトレイーーーン!!!助けてー!」」」
さあ、止めだとトリガーを引こうとしたまさにその瞬間、情けない哀れな悲鳴がアストロトレイン目掛けて放たれた。

どうやらジェットロンは一番近くに居たアストロトレインの形勢が有利なのを知り、ここぞとばかりに助けを求めてきたようだ。こういう時だけ三人息も乱れぬシンクロぶりを見せ、悲鳴と共に名を呼びまくっている。
「ご指名だよ」
にやにやと笑うマイスターに腹立ち紛れに一発撃ち込むが、華麗に避けられる。続けて数発撃つが、それも全てかわされた。彼はくるくると回転し、腕が使い物にならないというのに苦もなく立ち上がった。

アストロトレインは舌打ちをし、彼に背を向け、三人のいる方へと走り出す。このままマイスターと遣り合えば勝つのは自分だろうが、時間が掛かる。その間にも馬鹿共は騒ぎ続け、勝利を治めたとしてもいつまでも根に持つのは目に見えていた。
あんな奴ら放っておけば良いのだろうが、どうも自分の名を呼びながら助けを請われると放っておけないのだ。
アストロトレインは自分でも馬鹿だと思いながらも、ミニボット共に向けて銃を撃ち、怒号を浴びせた。
「おらおらおらーー!俺様が相手だチビ共め!」
そしてわーわーと蜘蛛の子を散らしたようにミニボットがジェットロンから離れた隙を付いて、シャトル形態のトランスフォームする。
「ほらさっさと乗れ!」
一旦離れたミニボットはその凶暴さを向き出しにして、アストロトレインに攻撃をしかけてくる。のたのたと乗り込む馬鹿共に発破をかけ、機体に張り付かれる前になんとか離脱することに成功した。

「ありがとう!」
「助かった!」
「死ぬかと思ったぜ!」
「「「サンキュー!アストロトレイン!」」」
機内で口々に礼を言うラムジェット、スラスト、ダージの三人にアストロトレインは色々と言いたいことがあったが、大きな溜め息ひとつで止めておいた。
「しっかりしてくれよ、お前ら・・・」
そんなに嬉しそうに素直に礼を言うから、どうしてもこいつらには甘くなってしまう。
「メガトロン様に怒られたらお前らのせいだからな」
ほぼ戦闘不能が三人乗っていてはとても戦場に居れない。アストロトレインは一足先に基地へ戻る事にした。

きっと、四人纏めて雷を落とされるのだろうが、なんとかならないものか。あの航空参謀が上手い具合に裏切ってくれると良いのだがな。眼下に見えてきた海を眺め、アストロトレインはぼんやりと考えた。
「スタースクリームのヤツ、なんか仕出かさねぇかな」
「なんでだ、ラムジェット」
「なるほど。あいつが何かやらかしたら俺らのお咎め無しになるかもな!」
「そういう事だ、ダージ」
どうやら彼らも同じような事を考えていたらしい。
とりあえず、偶には俺達の役に立って欲しいなと言い合うジェットロンに、お前達はあいつの役に立っているのかとは言わずにおいておくことにしたアストロトレインだった。
こいつらは6羽纏めて似たようなもんだ。

「おら。着いたぜ」





FIN