グランギニョール;Sameclass

スタスクVSスカファ。戦う元科学者。どっちもどっちな歪みっぷり。
※科学者時代スタスクが先輩で、スカファが後輩。出会いはエリートと駆け出し。という私設定が根本にあります。






スタースクリームが放ったナルビームを大柄な身体で器用に避けマシンガンを撃つ。巨躯に見合ったそれは威力も凄まじく、集中砲火を食らえばいくら丈夫な機体であろうと蜂の巣になるだろう。
しかし辺りに舞った硝煙と砂塵が晴れ、そこに居た機体は傷一つ負っていない。陥没した地面より少し浮いて、その男は笑っていた。
見下した視線。歪み釣りあがった唇。尊大な態度。見る者の不快感や嫌悪感を否応無しに引き摺り出す表情。
ああ、変わっていない。彼は今もひとりだ。スカイファイヤーはひっそりと笑った。

「相変わらずのようだ」
まるで親しい友人に対するような声。しかしそこに込められているのは明らかな侮蔑と軽蔑だった。どこかおっとりとした柔らかさを保ったまま、スカイファイヤーは構えを取った。飛び道具は背に仕舞い、徒手空拳でスタースクリームに相対する。
一対一で臨む時、スタースクリーム相手に火力勝負は不利だ。その突出した機動力と的の小ささは、まるで小虫のようにいやらしい。そして相反するように、スカイファイヤーの大柄な身体は的になりやすい。
スタースクリームが思惑に乗るのかは賭けだが、スカイファイヤーはどちらでも良いと思っていた。不利ではあるが、火力勝負になったとしても負ける気もしないからだ。

「すっかり元通りか。おもしろくねぇな」
「あの時は世話になったね」
「可愛げが戻ったと思ったのによ」
面白くねぇ、と笑いながらスタースクリームも構える。笑う彼のアイセンサーの放つ光は冷たい。
「おおよそ900万年か。流石に君も変わるかと思ったが・・・私が甘かったよ」
「何を今更。お前も変わっていないさ」
どれほどの時が経とうとも自分達は変わることなどない、とはっきりと言い放つスタースクリームにスカイファイヤーはただそうか、と答えた。
そんな事は無いのだと言ったところで聞く耳など持たないだろう。最早怒りは感じない。あるのは呆れや哀れみだ。そうして。スカイファイヤーは思った。きっとこの感情は彼も持っているのだろうと。

スカイファイヤーとスタースクリームはずっと平行線だった。互いに自分の意見を曲げられない。衝突を幾度繰り返しただろうか。科学の世界には必ず正解がある。それが明らかになるまで、主張はぶつかり続けた。それでもパートナーとしてやっていけたのは、スカイファイヤーを見出したのがスタースクリームであった事実があったからだ。
かつて、スカイファイヤーが駆け出しの科学者であった頃、スタースクリームは既に高名であった。目標であり憧れであった人に手を差し伸べられ、スカイファイヤーは迷う事無くその手を掴んだ。そうして知ったのは碌な事ではなかったが、確かに役に立つ事ではあった。スカイファイヤーは憧れを抱いたまま、同時にスタースクリームを軽蔑し、そして同化していった。
同じ穴の狢となったからこそ、最良のパートナーとなれた。どれほど相手を嫌おうとも、未知の世界の誘惑の前には小さな事だと思えたのだ。

「スタースクリーム。私はこれでも君に感謝しているんだよ」
巨体を生かし、スカイファイヤーが一気に距離を詰めた。ごう、と激しく風を切り重みを生かした蹴りがスタースクリームの頭部を襲う。
間合いが酷く読みづらい。スタースクリームは辛うじてそれを踵部分からのジェット噴射でもって後ろに避けた。ステップでは避けれなかっただろう。大きく距離を取りふん、と鼻を鳴らす。
反撃をする様子のないスタースクリームに、スカイファイヤーは構えを解いた。どうやらその気分ではないらしい。
「なら相応の態度で示して欲しいもんだぜ」
おどけたように肩を竦め、くるりと宙に座ったスタースクリームが、今更どんな態度で来たって一緒だがなと笑う。
「しているだろう。サイバトロンとしてデストロンに対する最高の態度で持ってね」
「ロクなもんじゃねぇな」
「君がデストロンに居てくれたお陰で、私はサイバトロンだ。世界が一気に広がったよ」
かつてのあの世界がいかに小さいものであったか。それを気付かせてくれたのは他でもないスタースクリームだ。

どこかうっとりとした様子のスカイファイヤーに、スタースクリームはなんの感情も浮ばないものだと思った。
なら良かったではないか、好きにすれば良い。祝辞のひとつでも言ってやろうか。面白そうだと、スタースクリームはそれを口にした。ついでとばかりにナルビームの銃口を向ける。

「おめでとう、スカイファイヤー」
含まれた棘に気付かないはずがない。案の定、スカイファイヤーは爽やかな笑顔と銃口でもって答えた。
「ありがとう、スタースクリーム」
ビームがスカイファイヤーの頬を掠める。麻痺はしなかったが、内部の電気制御系統が反応していた。チリリ、と小さな電流が頬で爆ぜる。
そしてスカイファイヤーの撃った弾もまた、スタースクリームの機体に傷を付けていた。何の特殊性もないただの弾丸は、シンプルであるが故に強靭だ。それは彼の鋼鉄の翼膜に小さな穴を開けた。

開いた穴を見、スタースクリームは馬鹿馬鹿しいと呟いた。傷付けられても全く戦闘欲が乗らない。
その理由はなんとなく分かっている。それを教えたのは自分だ。
技術も知識も、何もかも奪えと。盗んで自分のものにしろと。利用出来るのものは利用しろとスカイファイヤーに言ったのは、かつてのスタースクリームだ。
彼が今、盗もうとしているもの。デストロンの、スタースクリームにあって、サイバトロンに無いもの。答えなど初めから出ている。

「スカイファイヤー」
ゆっくりと機体を上昇させ、スタースクリームは腕を組んだ。そして笑う。
「体術を盗みにきたのか」
飛ぶ者の体捌きは飛べない者のものとは違う。そのほとんどに飛行能力のない、あっても生まれたてのひよっ子しかいないサイバトロンでは地上戦の戦い方しか教えを請えない。飛行能力を持つ以上、スカイファイヤーの相手は同じく空を飛ぶものだ。それだけでは駄目なのだ。
一見温厚に見えるスカイファイヤーは実のところ非常に厄介な性質を持っている。戦いは好きではなかろうと、武装し力を付けることになんの躊躇もない。
「さすがだね、スタースクリーム」
取り繕うことなく、スカイファイヤーは認めた。
「戦ってもらえると思ったのだけどね」
どうやらここでも私は甘かったようだと笑う。
「そういうのは俺よりも、他のヤツの方が良いぜ」
誰とは言わないがな。
スタースクリームはスカイファイヤーを見下ろしそう告げ、これで終わりだとばかりに急上昇して雲の向こうへと飛んで行った。

あっという間に視界から消えてしまった機影の名残りを眺め、スカイファイヤーは肩を竦めた。
「やれやれ。面倒な事だ」
さて、彼の言うのは誰なのだろうか。ジェットロンの誰かであることは間違いなさそうだが、スカイファイヤーのメモリにある面々を見てもどれもぱっとしない。
「やはり、私は君から奪いたいようだ」
その知識も力もなにもかも。奪えと言ったのは彼自身だ。
「私は今でも君を尊敬しているのだよ。本当にね」
ゆっくりと歩き出しながら、誰にでもなく呟く。今は飛ぶ気にはなれなかった。無意味な陸路を行く。
「でもやはり君とは馬が合わないね。なにせ一番軽蔑しているのも君だ、スタースクリーム」

相反する感情が同時に存在するなんておかしな話だ。今度、一緒に議論でもしようか?





FIN