甘え上手と甘やかし上手
ネタがネタなので、擬人化です。仲良し。
「スタースクリーム」
軽いノック音と共に、今良いかと訊ねる声。デストロンでこんなに丁寧な来訪を行うのはひとりしかいない。
彼はそれ以上何もせず、こちらからのリアクションを待っている。きっとこのまま何も返さなければ、彼は去って行くのだろう。
スタースクリームは作業を中断されて、些かの不機嫌と面倒を感じながらも立ち上がり、ドアへと向かった。気に食わない用件なら八つ当たりのひとつでもして、追い返せば良いだけの話だ。
「どうしたんだ」
シュン、と音を立て開いたドアの向こうに両手に小さな白い箱を持ったサンダークラッカーが立っていた。
へにゃり、と笑い一緒に食べないか問う。
その姿と態度に、ああ彼は甘やかしたいのだな、と感じとった。おかしなもので、サンダークラッカーはストレスが溜まると他人を甘やかしたくなるらしい。普通は逆じゃないのかと思うが、自分にとって悪い事ではないので放っている。スタースクリームは甘やかされるのが好きだ。それに癇癪を起こされるよりずっと良い。
「良いぜ。珈琲もな」
中に入るように言い、そして丁度良かったとばかりに珈琲を催促する。
「任せろ」
白い箱を持ったまま機嫌良く備え付けの小さなキッチンに向かう背を見て、スタースクリームは椅子に腰をかけた。
「まあ、後で良いか」
独り言のように呟き、デスクに開きっぱなしにしていたノートパソコンの電源を切った。
芳しい匂いが漂ってくる。普段は面倒だからとインスタントばかりだが、スタースクリームの部屋には一通り揃っている。使うのは主にスタースクリーム以外だが、それらを邪魔なものとは思わない。
しばらくすると、トレイに皿とカップを乗せてサンダークラッカーがやって来た。
デスクに珈琲とケーキが盛られた皿を置き、自分は寝台に腰をかける。膝の上にトレイを置き、簡易机にするその姿を行儀が悪いと叱るものはここにはいない。
「美味そうだな」
スタースクリームはそう言い、早速一口食べた。見た目そのままにそれはとても美味しい。
「美味い」
素直に感嘆の言葉を口にし、中々の勢いで食べるスタースクリームを見、サンダークラッカーはにこにこと笑っている。自分の分を一口食べ、美味しいなぁとぼんやりと思った。
「スタースクリーム」
そして膝の上のトレイを寝台に置いて、ケーキの乗った皿を手においでおいでと手招く。
最後の一欠けらを口に入れ、スタースクリームは珈琲片手に立ち上がり、サンダークラッカーの隣に腰を落とした。
「ほら」
あーんとフォークに乗せたケーキを口元に持っていくと、スタースクリームはそれを当然のように受け入れた。
「これも美味いだろ」
「おう」
また口元へ持っていくと、ぱくりと食べる。その顔が幸せそうで、サンダークラッカーはここへ来て良かったとしみじみと思った。
素直に甘えてくれるスタースクリームに甘やかされているのはどっちだろう、そんな事を思いながらサンダークラッカーは最後の一欠けらを自分の口に入れた。
それを待っていた口がぽかんと開いているのを見て、にっこりと笑う。
「まだあるけど、食べるか?」
「お前な。分かっててやるなよ」
開けていた口を閉じ、少しむくれた顔をするスタースクリームにサンダークラッカーはごめんと笑って良い、立ち上がろうと腰を浮かす。しかし腰に掛かった重みにそれは阻まれた。
「スタースクリーム」
「別に今は良い」
自分の膝に頭を置いたスタースクリームに、何時の間にか空になっていた珈琲カップを渡される。受け取り皿と一緒にトレイに乗せ、サンダークラッカーはその開いた手を膝の上の頭に乗せた。
「寝る?」
「寝たら1時間後に起こせ」
寝るつもりはないが、そうなったら起こせとスタースクリームは目を閉じた。腰を捻っている少し苦しい体勢なので眠る事はないだろうと思うも、寝不足気味なのとお腹が一杯になった事でどうなるか分からない。
しかしすぐに、ゆっくりと髪をすきやわらかく撫でる手の心地良さに前言を撤回した。一時間くらいなら構わないだろう、と。
FIN