It's GLORIOUS #1

”ALL HAIL MEGATRON #12”よりその後の捏造。
恋愛では無いベクトルでスカワ→←サンクラ。






それはあっという間の出来事だった。
サンダークラッカーには分からない。何故、スカイワープがこれほどまでに怒りを露にしているのか。何故、そんな恐ろしい顔で機銃を自分に向けるのか。何故、自分の話を聞いてくれないのか。理解出来なかった。
ただ彼に分かるのは、その怒りが自分に向かっているという事だけだ。

激しい怒りと共に放たれたエネルギーの塊がサンダークラッカーを襲う。目の前が真っ白になった。彼は自らの死を覚悟したが、その光の奔流の後に視覚センサーが映した光景に、まだ生きている事を知った。
どんどん小さくなる、青い空にぽつんと紫色をした人影。人影はやがてその形を認識できなくなり、ただの一粒の黒い何かになっていった。
離れていってしまう。サンダークラッカーは影に向かって左手を伸ばそうとしたが、それは叶わなかった。違う。離れていっているのは自分の方だ。下へ。大地へ。地面へ。重力に招かれ落下している自分の身体。手は伸ばせない。無いのだから。
サンダークラッカーは自分の思考が安定していないのを感じた。そして酷く静かだと思った。何も聞こえない。そういえば、どうも視界がおかしい。辛うじて動いた右手で顔に触れる。あるはずのものが無かった。いや、あるにはあるが、常の感触は無い。離した右手を見て、サンダークラッカーは、こりゃあ、ひでぇ有様だと小さく呟いた。言葉は声にならなかった。どろりとしたオイルと、破片がこびりついている。おかしいはずだ。どうやら、自分の左側は潰れてしまったようだ。顔も、肩から先も、そしてきっと上半身丸ごと。腰から下の感触はあるが、見る気も起こらなかった。

サンダークラッカーは自分が落下しているのを知りながら、どうにも出来なかった。成層圏からのダイブは初めてだ。重力制御装置も、ジェットブースターもうんともすんとも言ってくれやしない。
死ぬんだな。ぼんやりと思った。考えることも辛くなってきた。きっとブレインサーキットもあちこちやられているのだろう。地面と衝突してバラバラになって死ぬのか、それとも落ちきる前に機能を停止させて死ぬか、どちらだろうか。痛いのは嫌いだから、出来るのならさっさと意識を手放したいとサンダークラッカーは思った。

スカイワープの砲撃をまともに食らった。避けられない距離で放たれたエネルギーは、サンダークラッカーの左半身を遠慮無く持っていったようだ。
本気だったんだなぁ、とぼやけた頭で考えて少し泣けた。
痛てぇよ、スカイワープ。この馬鹿。遥か高みに向けて文句を言ってみるが、聞こえやしないだろう。
自分の話を全く聞き入れてくれなかった事は哀しいが、サンダークラッカーは彼を恨む気にはなれなかった。それどころかさっぱりとした気分だった。
死にたがりでは無いが――むしろ、どちらかと言うと生き汚い方だと思う――、こんな終わりをどこかで望んでいたのかもしれない。彼の手で死ねるのなら、良い、と。
しかし心残りはあった。自分は死ぬ。それは良い。彼は大丈夫だろうか。きっと自分を殺した事ぐらいではどうにもならないだろうが、むしろそうであって欲しいくらいだが・・・。
ぐるぐると回り始めた過去の記憶の中で、自分に一所懸命構ってくれるスカイワープの姿が現れるたびに、サンダークラッカーはもしかしたら、と思うのだ。彼が自分を撃った事を後悔してしまうのではないかと。
撃たれるまでは分からなかったが、今ならなんとなく分かる気がする。彼が自分を撃ったのは正しい事だと。デストロンとして彼は正しい。そして自分は過ちを犯した。たとえ、それがデストロンの為であっても、それは言い訳でしかない。
やはり自分はデストロンに向いていなかったようだ。それでも離れなかった理由。その理由のひとつに殺されるのは当然の事のように思えた。
だから。サンダークラッカーはぼんやりと願った。もうあまり時間は無いようだ。お前は絶対に哀しんだり、後悔するなよ、スカイワープ。本人に直接言ってやりたかったが出来ないのが悔しい。

ありがとう、と呟いた言葉はやはり音にならず、そのままサンダークラッカーは意識を手放した。



*****



目覚めるとそこは白い部屋で、サンダークラッカーのブレインサーキットは軽く混乱を起こした。死んだら機能停止して終わりじゃなったのか、と呟くとそれはちゃんとした声になっていた。そしてクスクスと笑う声が聞こえ、サンダークラッカーは反射的に上半身を起こし、そちらを向いた。
笑い声の主がサンダークラッカーを見ていた。
「お前は生きているよ、サンダークラッカー」
白いサイバトロンの軍医が椅子に腰掛け、柔らかく微笑んでいる。デストロンでは見ない類の笑い方だと、サンダークラッカーは思った。

ぼんやりと自分を見つめる患者にラチェットはそっと手を伸ばした。視覚センサーの前でゆるく手を振る。のろのろとした動きだか、確かに視線はそれを追っていた。
「やはり私のリペアは完璧だな」
うんうんと頷き、サンダークラッカーの肩に手をかける。肩はびくりと震えたが、それを無視して寝台に押し戻した。あまりにもあっけなくなすがままになっているサンダークラッカーに、ラチェットは少し呆れた。
「サンダークラッカー」
呼びかけると、やはりのろのろとした動きで首をこちらに向けた。
「ここはサイバトロンの基地・・・というような大した代物ではないな。だが、まあ、そういうところだ。お前はサイバトロンのよって助けられ、ここに運び込まれ、そして私の涙ぐましい努力の末、すっかり元通りになったんだよ」
置かれた状況を簡単に説明してやると、彼は小さくそうか、と呟いた。あまり嬉しくなさそうだと感じ、ラチェットは人間でいう眉間に皺を寄せた。
「流石、と言ったところかね。あれだけ酷い損傷を負っていながら、生きていたのは」
彼らデストロンの装甲は、サイバトロンのそれより強靭に出来ている。特に、ジェットロンと呼ばれる者達はその見かけの華奢さら想像も付かないほどの丈夫さ持つことは有名だ。
ひとりの男を脳裏に描く。パーセプター。彼がこのデストロンなみに丈夫であったなら。考えても仕方がないことだと知りながら、考えてしまう。稀有な能力を失う事も無かっただろうと。
「誰が・・・」
「知ってどうする。お前は人間とサイバトロンを救った。そのつもりなど無くても、結果はそうだ。そんな相手をサイバトロンが助けないはずが無いだろう」
「余計な事を」
「そうだな。だが、良く考えてみるんだ。最初にその余計で、ありがたい事をしてくれたのは誰だったのかを、な」
お陰で我々は生き延びた。お前は嬉しくともなんともないだろうが、皆、感謝しているのだよ。
柔らかい声と表情でそう語るラチェットを見ながら、サンダークラッカーは彼が誰の事について言っているのか分からなくなった。

遠くを見るサンダークラッカーに、ラチェットは軽く溜め息を吐いた。もう少しゆっくりとさせていた方が良さそうだと、彼が目を覚ました事を報告するのを止めた。そんな事をすれば、目覚めを待ちわびている奴が入ってきて、彼はますます混乱するだろう。

本当におかしなデストロンだ。ラチェットは大人しく寝台に横たわるサンダークラッカーを見てしみじみと思った。
彼を襲撃したのは確実にデストロンの兵士だろう。それなのに、恨み言のひとつも無く彼は受け入れていた。きっと、今も自分はデストロンだと思っているのだろう。
彼の行為は誰がどうみてもデストロンへの裏切り行為だった。しかし、もしかしたら、彼の中ではそうでなかったのかもしれない。戻るつもりなのだろうか。戻れやしないというのに。憐れみに似た眼差しを向ける。死なせてやった方が良かったかもしれない。ラチェットは頭を振った。
馬鹿な事を思ってはいけない。





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