日和見と事勿れ
サンダークラッカーとサウンドウェーブは酒飲み仲間、だと良いな、と思ったら止まらなくなった。サンクラ→スカワ→メガ→←コン。音波→←ブロ。もう何がなんだか。





サンダークラッカーがサウンドウェーブと呑む時、誘いをかけるのはお互いだ。そしてサウンドウェーブが誘いをかける時、それは彼の機嫌があまりよろしくない時だった。
今日も、自分の前で黙ってエネルゴン酒を煽っているサウンドウェーブを見て、サンダークラッカーはやれやれと小さく肩をすくめた。
自分のグラスを煽りながら、空になったグラスに注いでやる。注がれたエネルゴン酒をサウンドウェーブは一気に煽り、乱暴に空になったグラスをテーブルに叩き付けた。トランスフォーマー用に強化されたグラスはそんなことでは割れはしないが、サンダークラッカーは見ていて少しだけヒヤッとしたのだった。

そういえば、今日の戦闘にあの男が出ていたな。
サンダークラッカーはサウンドウェーブの不機嫌の理由を予測し、内心で呆れた。それを表には出さず、手の中でぐるぐると回されている空のグラスにビンを傾ける。こういう時は早々に酔わせてしまうに限る。相手もそれを望んでいるだろう。
たっぷりとエネルゴン酒の注がれたグラスを握り、しかしサウンドウェーブは先ほどのようにそれを一気に煽らなかった。ゆっくりと口付け、一口だけ含む。
その様子を見ながら、サンダークラッカーは自分のグラスを空にした。

「アンタも良い加減素直になれば良いのにな」
サンダークラッカーは面倒事は嫌いだ。自分の主張が面倒を引き起こすのなら、仕方が無いと諦めてしまった方が楽で良いと思っている。彼がその主義に賛同していないデストロンに所属しているのも、そういう性質からだった。理由はそればかりではないが、それなりに大きな要因だ。
「俺は、十分素直だ」
剣呑な声に少しの酔いが混じっている。平素であればそれなりに恐ろしく感じるだろうが、今のその声はどうにも色っぽい。サンダークラッカーは手酌しでグラスを満たしながら思った。
「確かに素直だとは思うが、俺が言ってるのはそういう意味じゃなくてなぁ」
「貴様が人の事を言える立場か」
サンダークラッカーの言葉を遮り、サウンドウェーブはふん、と嘲笑い、ぐいっとグラスを煽った。空になったグラスを注げとばかりにテーブルに置く。サンダークラッカーは再び、やれやれと肩を竦め、注いでやるのだった。
まあ、確かに自分もサウンドウェーブの事は言えない。サンダークラッカーは自嘲気味に笑った。
「人に素直になれと言うなら、貴様がそうすれば良いだろうが。出来ないだろう。出来ないくせに言うな、だから貴様は馬鹿なんだ」
「ああ、悪かった、悪かった。ご尤もです。だけどなぁ、俺とアンタじゃ、違うだろうよ」
「何が違う」
「俺はどうしたってどうしようもないけど、アンタは違うだろう。アンタはアイツのことしか見えてないし、アイツもアンタしか見てないじゃないか。ちょーっと素直になれば何の問題も無いじゃないか」
本当は問題はあるのだが、きっと些細なことだろう。何せ、自分達のトップとその相手が彼らと同じような状態なのだ。全く、真面目に考えるのも馬鹿馬鹿しいことだった。
「・・・愚かな奴だ。あの方がアレ以外を見るはずもないのに。貴様もスカイワープも、愚かだ」
話を逸らしたな。サンダークラッカーはそのワザとらしい言葉に少し腹を立てたが、事を荒げる趣味は無いので、流すことにした。代わりにぐいっとエネルゴン酒を煽る。
「アイツは見返りなんか考えてないからな。強いぞ」
サンダークラッカーは想い人を脳裏に描き、笑った。人間やサイバトロン風に言うなら、なんて献身的で一途で美しい真実の愛、と言ったところか。残念ながらデストロンではただの行き過ぎた忠誠心でしかないものだ。
「馬鹿ばっかりだ」
「全くだよ」
本当に、愛だの恋だの、デストロンに似つかわしくないというのに、自分達を取り巻く感情は、きっとそうとしか言いようが無いのだ。
決して振り向かない相手を想うことも、殺したいほど相手を想うことも、ちっとも賢くない馬鹿げた茶番だ。

サンダークラッカーは空になったビンを置き、新しいビンの栓を抜いた。こういう時は呑むに限る。
もっと世の中が単純だったら良いのに。サンダークラッカーはそう思いながら、空になったグラスにビンを傾けた。





FIN