くれないのひかり

メガ→←オプでメガ様受っぽいけどメガオプです。ディセップ敗北で、囚われのメガ様。皆生き返り仲良くVerに繋がります。
※リベンジのメガ様は戦争中、オプティマス呼びはせず、プライムとしか呼んでいないという設定があります。07'とは異なります。






シュッと軽やかな音を立て扉が開くのをメガトロンは見ていた。
部屋には寝台がひとつと椅子がひとつあるだけだ。メガトロンは寝台に腰をかけている。どちらもこの星の物質で出来ており、デザインの簡素さも相まってひどく貧相に感じる。軽く力を入れただけで、粉々になってしまうだろう。この部屋諸共。
しかしメガトロンはそうはしなかった。
彼は待っている。解放される時を。
必ず、とあれは言った。ならば成されるだろう。



ディセプティコンはオートボットと地球人の連合に敗北を喫した。オプティマス・プライムが振り上げたブレードの鋭い切っ先が己の胸部に沈むのを、メガトロンはその時、不思議と静かな気持ちで見ていたのを覚えている。自らの死と言う受け入れ難い事実は、その瞬間、こうなる事を望んでいたかのようにすんなりと受け入れる事が出来た。
青い光をじっと見据え、メガトロンは笑った。オプティマスが名を呼ぶ。応える前にメガトロンの意識は消えてしまった。彼の名を呼ぶ事が出来なかった事が少し残念だったが、もうこれで良いのだと落ちていく回路の片隅で思った。
なのにおかしな事で、メガトロンは再び目を覚ました。消え去ったはずのスパークは今も胸に残り、身体も以前のままだった。死んでいない。その事実をメガトロンは喜びも怒りも無く悟った。
「敗北は死であるべきだ」
寝台に横になったまま、メガトロンは口を開いた。すぐ傍に居る鮮やかな彩色の巨体の持ち主がそっと笑い、腰を掛けていた椅子から立ち上がる気配がした。
「スパークを失っていない者は生きている」
「余計な事を」
「久しぶりに聞くな、そのセリフ」
ディセプティコンの兵士達が生きている、とそのトランスフォーマーは告げたが、メガトロンには何の感慨も沸かない事だ。あれらは駒でしかない。どうでも良いような事をさも重要な事のように告げられ、舌打ちをする。
掌が頬に触れるがメガトロンは身動ぎひとつしなかった。赤い視覚センサーだけ、動かし掌の持ち主を睨みつける。
色も形もかつてメガトロンが良く知るものとは違っていたが、そんなものは関係無い。金だろうが青だろうが、その視覚センサーに宿る光の質は全く変わっていない。
「生かすメリットなど無いだろう」
殺す必要はあるだろうがな。何千、何万殺しても足りないだろうほどに。メガトロンは馬鹿馬鹿しいとばかりに笑った。
返事は無かった。しかし傍に立つトランスフォーマーから困惑や焦燥は感じられなかった。メガトロンが良く知る彼はこういう時ひどく戸惑っていたというのに、今の彼はそういったものは一切無く、どこか余裕のようなものさえ感じられた。

「メリットは確かに無いな」
しばらく沈黙が続いた。破ったのは立っているトランスフォーマーの方だった。メガトロンには何も言う事が無いので、当然と言えば当然の事だ。むしろ、彼は早くこの茶番を終わらせたいと思っている。
「お前を生かすことはデメリットだらけだ。誰一人として良い心証を持っていないだろうからな。この星の人々も、オートボットも、そしてディセプティコンでさえ。ああ、一部の者はそうでは無いようだが」
お前は昔から好かれる時はとことん好かれていたな。過去を思い出しているのか、器用に瞼のようなものを細め男は笑った。
その様子にメガトロンは今が何時で、ここは何処なのか、一瞬分からなくなった。何百万年前のメモリがフラッシュバックする。だが、それは完全に重なる事は無かった。記録の中の男と、隣に立つ男は何かが決定的に違った。
メガトロンの心情を余所に、男は言葉を続けた。
「人間達は当然、お前たちを生かす事に反対した。多くの同胞を虫けら同然に扱い、殺したお前たちは許し難いとね。侵略に対する報復は、相応の代価で支払われるべきだ。オートボット達も今回は流石に人間達の言う事に全面賛成していたようだ。彼らも数多くの友を失ってきたのだから、当然の事だな」
そこで言葉を一旦区切り、男は再び椅子に腰をかけた。超重量を受け止めぎしりと危うい音が部屋に響いたが、椅子は壊れはしなかった。

ふう、と排気を行い男が再び口を開いた。
「彼らを説得するのは中々骨が折れたよ」
まだ完全とはいかないが。幼いと思っていた人間達も中々やるものだ。私もまだまだという事だな。
小さく肩を竦め、それでも8割くらいはひっくり返す事が出来たと、男は言い、メガトロンの額に手を伸ばした。触れる。させたいようにさせ、メガトロンは忌々しげに呟いた。
「愚か者め」
「そうだな。全て、私の私欲で行った」
彼の言う事が真実なら、さぞかしその類稀な政治力とカリスマを遺憾無く発揮させた事だろう。この男は為政者だ。民には慈愛を、敵には容赦はしない。覇者ではない。統治する者。守るべきものの為なら、その手をオイルに染める事すら躊躇せず、敵とみなしたものを倒す。そして守るべきものの為なら、それが必要なのだと認めたのなら、あっさりの自らの命に変えてみせる。その苛烈さは、決して自身の為に発揮される事は無かった。
しかし。しかし今、彼は言う。全て自分自身の為にその力を解放したと。
ありえない。彼はプライムだ。そんな事をするはずが無いのだ。出来るはずが無いのだ。
「貴様はプライムだろう」
「私自身、驚いているよ。こんな事は初めてだ」
あまり良い気はしないものだ。しかし止める事が出来なかった。男は穏かな声で、彼を知る者が聞けば驚愕するような事をあっさりと言った。
「サムが、あの若者がお前を倒した時は、そんな事は無かったのにな。あの時は、あれで良いのだと。お前が死に、私は生き残った。それで終わりだと思っていた。しかし自分の手で終わらそうとした時、私には無理だと思ったのだ。私にはお前を殺す事は出来なかったよ。あれだけ憎んでいたというのに」
「・・・」
「生きて私の隣に戻って欲しいと願った」
額に置かれていた手がゆっくりと頬の輪郭をなぞり、口元へと辿り着く。無防備に唇に触れる指を噛み切ってやろうかと、メガトロンは思った。
「貴様がここまで愚かだとは思わなかったぞ」
「私もそう思っている」
吐き出された悪態に笑って応える様が忌々しい。目覚めたばかりの身体は損傷こそ無いものの、エネルギーが圧倒的に足りない事は明白だった。

唇から手が離れていく。男は立ち上がった。
「メガトロン」
くるりと背を向け、男が名を口にする。メガトロンは何も返さなかった。じっとその背を睨みつける。
「覚えているか。お前が私に言った言葉を」
全てメモリに残っている。膨大な量だ。しかしメガトロンには彼が何の事を言っているのかは分からなかった。当然の事だ。
「生命の自由を謡うのならば、お前が自由になれ、と」
お前は私に言ったな。振り向き、青い光がじっとメガトロンを見据えた。赤い光がそれを迎え撃つかのようにきらりと瞬く。
メガトロンは視覚センサーの光を絞った。凝縮された光がまるでレーザーのように男を射抜く。
「考えた。ありとあらゆるシュミレーションを行った。・・・そして分かった。私にはお前の言うような自由を得る事は出来ないのだと、な。しかし、メガトロン。自由になろうと願う事は出来るのだな」
男が笑う。穏かで静かな笑みだ。
「お前から見て、今の私は自由だろうか?」
「俺を生かす事。それが解放された貴様の望みだったのか、オプティマス」
「やっと名前を呼んだな」
出て行くのだろうと思っていたオプティマスは、再び踵を返して寝台に近付いてきた。足音が妙に響く。メガトロンは上体を起こした。あちこちのジョイントが軋んだ音を立てた。
すぐそこにオプティマスが立っている。手を伸ばすと容易く触れる事の距離だ。敵の司令官の立つ場所ではない。今のメガトロンでも渾身の力を込めれば、そのスパークを打ち砕く事が出来るだろう。オプティマスもまた然りだ。
「お前が私の名を呼ぶのは、一体何百万年ぶりだろうか」
オプティマスが笑う。
「貴様はだから甘い。俺が再び裏切ったら、どう始末を付けるつもりだ」
手を掴み引き寄せた。抵抗無く指先がメガトロンの口元へ運ばれる。その指先をぺろりと舐め、メガトロンは笑った。獰猛なケモノのような笑みだ。赤い光が強く瞬いた。
「私にはそんな自覚は無いがな。そうだな。その兆候が見られた時は、今度こそこの手でお前を殺せるだろう。始まる前に終わらせてみせよう」
どこか恍惚とした表情を浮べオプティマスも笑った。メガトロンは知っている。これは誰も知らないオプティマスだ。自分以外知らない、プライムでは無いオプティマス。メガトロンが欲してやまなかったものだ。

指を咬む。舐める。口内へ招きいれ丹念にしゃぶってみせると、オプティマスはゆっくりと膝を崩しメガトロンへと覆いかぶさった。受け止め、左手を腰にやり、右手を彼の顎へと添える。
じっくりと視線を交わし、そしてお互いの唇を合わせた。

その貪欲で獰猛な赤い光が、自分を求め飢える様が見たかったのだ。そう告げればお前は一体どんな反応をするのだろうか。
オプティマスは懐かしく愛しい者を全身で受け止めながら思った。





FIN