Boy's mind

※米軍のお偉いさん達はリベンジ文庫版P.296に出てきた人達です。4人が一緒にガルシアに来れる訳ないですが、そこはTF×ベイってことで。
普通は先にオートボットとお偉いさんに会って、NEST設立の流れだと思うのですが、P.296のおじ様達にキャッキャさせたかったので、NSETがちゃんと機能するまで実際に会っていなかったという流れにしました。それまでは映像で会話。
この話に登場する各国の軍隊は「なんか宇宙から巨大な敵が来た!ロボットだ!」「よし!力を合わせて戦うぞ!人間の意地を見せてやる!」「なんか強いロボット達が一緒に戦ってくれるってよ!」「よーし!これで勝てる!一緒にいくぜ!」な人達で構成されています。
実際、現実でもTFだからとヨルダンやエジプトが撮影に全面協力してたくらいですしね!






生き生きとしていた。その姿に妙な気恥ずかしさと、親しみを覚えた。これはあれだ。自分の父親が年甲斐も無く趣味に没頭する姿だったり、大好きなものを前にして普段の威厳はどこへやらなはしゃぎっぷりを目にした時に似ている。そしてそれを他人に見られた時のあの気まずさと、どこか誇らしく思う気持ちだ。
それにあの興奮は良く分かる。彼らに初めて対面した時のあの興奮は忘れようもないものだ。巨大でそして変形までするロボットに心をときめかさない男はいないはずだ。いるかもしれないが、恐らくここにはいない。
少年の頃。将官である彼らは青年時代だろうか。息子にせがまれて一緒にアニメを見たり、玩具をねだられ、そして一緒になって遊んでいただろう。
あの玩具やアニメに触れて、道行く車が変形しないか、空を飛ぶ戦闘機が変形しやしないか、と想像しなかった者は果たしてどれだけいるだろうか。
それが今まさに現実となって、自分達の目の前に存在しているのだ。全く完璧な車から、人型のロボットへと変形するのは、感動以外にない。すげぇ!の一言だ。
結局幾つになってもどれだけ地位が高くなっても軍事馬鹿は軍事馬鹿で、そして男は少年なのだ。考えてみればこんなある意味荒唐無稽な軍隊を作ろうなどと言い出すくらいだ。しょせんは馬鹿の親玉だったのだ、この人たちは。勿論、親愛を込めた良い意味で。

それがディエゴ・ガルシアに詰める元アメリカ軍兵士達の率直で正直な感想だった。誰も口には出さなかったが、心はきっとひとつだ。
オプティマスの周りでキャッキャしている将軍達を見て、レノックス少佐は隣に立つエップス軍曹と視線を交わした。いい年したおっさんがまるでガキみてぇじゃねぇか。きらりと輝く白い歯と、立てられた親指が眩しい。そして更に隣に立っているグラハム大尉を見て、後悔した。見なければ良かった。英国紳士の笑顔はなんだか心臓に悪い。
「ああいう姿を広報活動に使えば、心証も随分変わると思うが」
「いや、あれは流石に拙いだろう」
面白そうではあるが。お前んところの軍で提案してみろよ、とエップスがグラハムを膝で突いた。負けじと反撃するものだから、二人はこそこそと膝で突き合いの応戦をし始める。それをレノックスが横目で見た。やばくなったら止めようと思うが、こういうのは放っておくに限る。上下関係に厳しくない男の周りにはやはりそういう者達が集まってくる。
とりあえず護衛という名目で付いてきているのだから、本来の対象に目を向けておいた。繰り広げられる眼前の光景にレノックスはぼそりと呟いた。
「なんというか、ああいう風になりそうだな、俺達も」
そして笑った。どれだけ年を取ってもきっと自分の好きなものを前にすると、年甲斐も無くはしゃぎ出してしまう自信がある。
レノックスはそういう意味で言ったのだが、部下二人は違う風に取ったようだった。応戦を止めて食い付いてきた。顔に張り付く笑顔から、真意は分かっていて言っているかもしれない。
「お!聞いたか、グラハム」
「レノックス少佐はどうやら将官にまで上り詰めるおつもりらしいな」
「お前らな」
にやにや笑う二人に軽く拳骨を落とし、レノックスも笑った。

レノックスは後に知る事となる。イギリス軍のお偉いさんが来た時、全く同じような思いをグラハムもする事となり、更にその後、それは全世界共通だったのだと知るのだ。
考えてみればすぐに分かる事だ。いくら地球外生命体の侵略が現実になったとはいえ、NEST設立の速さは異常だった。つまりはこういう人たちが各国軍のトップにいたが故の速さだったのだ。
しかしそれは先の話で、とりあえず元アメリカ軍兵士達の微妙な感情は未解決のまま、当分続く事となる。彼ら兵士はジョークやユーモアのネタに飢えているのだ。他国のそれに食いつかないはずがない。

さて、前の戦いで当事国になった事と、NEST軍立案者の立場を使って、他国に先駆け真っ先に視察にやって来た彼らはそんな兵士達の気持ちなどどこ吹く風とばかりに、新たな友人であるオートボットと戯れていた。実際仕事の一環であり、決して遊んでいる訳ではないのだが、どうみてそう見える。普段なら隠し通せるであろう喜色が駄々漏れていた。
それはもうそうそうたる顔ぶれが揃っており、誰もが疑問に感じたはずだ。ペンタゴンは大丈夫なのか、と。各軍の参謀総長そろい踏みしている。どんな緊急事態だといわざるえないが、何も起こってはいない。彼らにひとりずつという選択肢は無かったようだ。
そんなメンバーを率いているのはモーシャワー将軍だ。参謀本部の議長でもある。常に堂々とした立ち居振る舞いをする人物であるが、今日は格別に輝いていた。決して煌く太陽が反射して眩しいという事ではない。
彼はメンバーの中で最も早く、オートボットと接触している。NESTの司令官として当然だ。何度も会っているので、今更ほかの三人の様になる事はない。が、NESTの司令官としてか、それとも先に彼らと接触しているからか、はしゃぐ三人の姿を見てふふんと胸を逸らした。どうだ、すごいだろう、と言わんばかりの態度だ。傍から見れば四人纏めて同類にしか見えない。

彼らの相手をしているのはオプティマス・プライムだ。彼は何時ものように腰を折り、人間と目線を合わせられる位置にまで顔を持ってきている。その行為を意味を取り違うほど、彼らは愚かではなかった。
矢継ぎ早に様々な質問を浴びせかけても、彼はひとつひとつ丁寧にしっかりと答えてくれる。その質問には政治的な色は無かった。暗黙の了解なのか、それともこの時にまでそういったものを持ち込みたくないという気持ちからなのか。そんな事は考えておらず、唯の興奮からそうなっているのかもしれない。それぞれ海千山千の政治力を持っている者達なので、それはないだろうとは思うが。
モーシャワーは苦笑した。私もそうだった。後から自分を振り返って、あれはまるで息子が父親に、そして父親が祖父に対する態度だったと恥ずかしくなったものだった。自分達は社会的地位も高く、そして年齢も高い。祖父という存在はもうおらず、むしろ自分がそういう立場である事もおかしくない。どこか無意識のうちに、自分より強く大きな存在を求めていたのかもしれない。何百万年の時を生き、そしてかつてひとつの星を収めていたオプティマスはまさに求めていた人物といえるのではないだろうか。
懸念として、軍の責任者がこのような浮ついた姿を一般兵士に晒して――しかも他国の兵士も大勢いる――大丈夫だろうか、というものがあるが、モーシャワーは懸念は懸念で終わるだろうと思っている。通信や実際にそれぞれの国の軍事責任者に会ったが、そのメンバーを思い浮かべる限り、同じような反応をするという自信があるからだ。
問題は軍事関係者ではなく、政府関係者だと思っている。全く面倒な事だが、仕方が無い事でもある。出来れば独立したいものだ、とこっそり心の中でごちた。

モーシャワーはオプティマスを見た。
他人が彼と話しているのを見ていると、自分も話したくなってくる。これではますます親を独占したがる子供ではないか、と笑う。美味い酒でも飲んでゆっくりと。そこまで考えて、彼はそういったものは飲まないだろうことが残念だと思った。





FIN