Killing Me Softly
意訳『良い気分にさせて欲しい』&『魅了して』、直訳『優しく殺して』

※MG/OPで残虐シーンばかりです。OPが痛々しいです。閲覧にはご注意ください。





周囲に散らばる瓦礫は皆、同族のものだ。今はもうただの屑鉄と成り果て、敵も味方も無く混じり合っている。
酷い苦痛の中、オプティマスはそれに深い哀しみと少しばかりの羨望を抱いた。

「何を見ている?」
メガトロンは苦痛に呻く獲物の意識が逸れたのを感じ、更に足に体重を乗せた。オプティマスの腹部に爪先がめり込み陥没していく。それを見てメガトロンは笑った。損傷の激しい胸部に鈍い痛みが走ったが、構わずに身体を振るわせた。

酷い様だ。足元のオプティマスも、己も。
メガトロンはオプティマスと同じように周囲を見渡した。生体感知センサーには何の反応もない。
気が付けば、戦っているのは自分達だけになっていた。周囲の屑山を作り出したのは果たして誰であったか。最早そんなことはどうでも良かった。
ここには己とオプティマス・プライムのみしかいない。そして己が優位に立っている。ただそれが事実だった。メガトロンにとっては幸福な、オプティマスにとっては不幸な事実だ。

じりじりと足に体重をかける。もう少しで爪先が地面に着くだろう。はみ出したコード類がバチバチと火花を散らした。
苦痛に顔を歪めながら、オプティマスがメガトロンを見上げた。メガトロン、と低い呻き声に混じって名を呼ぶ。大いなる怒りと、少しの哀しみの混じった声だ。

哀れなものだ。
メガトロンはそう思った。右手は最早使い物にならない。融合カノンは使えないだろう。他の武器システムもほぼ全滅だった。しかしオプティマス・プライムを殺すのにそんなものはいらない。ただ、左手を胸部に伸ばせば良いだけだ。それで事は全て済む。
早々にそれをすべきなのだろう。しかしメガトロンはしなかった。体重を一気に腹部に置いた左足にかけた。金属のひしゃげる嫌な音と共に、メガトロンの爪先は地面に触れた。左足の感覚受容器に濡れた感覚がじわじわと広がった。喘ぎにも似た呻きが低く、小さく周囲に響いている。
しばらくその感覚に浸りたいとメガトロンは思ったが、やめた。ゆっくりと腹部から足を抜く。漏れたオイルがぬらぬらとした光沢をメガトロンの足に与えていた。

メガトロンは屈み込み、オプティマスの左聴覚センサーに口を近づけた。そこはすっかりと壊れ内部構造を露にしており、機能していないように見えたが、構わなかった。
「悔しいか、オプティマス」
囁き、そして自由になる左手でオプティマスの左腕を引き千切った。すでに機能していなかったとはいえ、痛覚は残っていたのだろう。至近距離で抑えきれなかった悲鳴が響く。それはなぜかあまり心地良いものとは思えなかった。
「苦しいか、オプティマス」
更にメガトロンは囁いた。オプティマスは苦痛に呻き、身体を震わせ、メガトロンの下から逃れようと身を捩る。見上げる眼光に諦めや絶望の色はなく、やはりそれは怒りと哀しみに彩られていた。

変わらない。その哀しみの色はオプティマスのどの様な感情にも必ずあった。
メガトロンの記憶回路はかつてのことを何一つ消し去ってはいない。全てすぐに取り出せる。
しかし、ただそれだけだ。かつての記憶はあるが、それがどういうものであったのかは分からない。感情が付随しない、ただの過去だった。それはオプティマスも同じなのだろう。遠い過去の話だ。
今ある事実は、自分達は互いへの想いが故に最早相容れることはないということだった。

さあ、早く止めを刺せ。終わらせろ。そして己の欲望を叶えるのだ。
メガトロンの論理中枢が何かに追い立てられるようにオプティマスを殺せと急かした。
「オプティマス」
胸部に手をかける。オプティマスが激しく身を捩った。メガトロンは彼の残った右腕を掴み、思いっきり引っ張った。めりめりと音を立てて、肩から腕が取れた。響いた叫びは今まで一番大きなものだった。
両腕を失っては最早ろくに抵抗も出来ないだろう。メガトロンは今度こそ、オプティマスのスパークに手を伸ばした。

「…無粋なことだ」
胸部に指をめり込まそうとした時、メガトロンの生体感知センサーが反応を示した。オートボッツの反応だ。彼らが到着するまでにオプティマスのスパークを奪うことは簡単だった。
「興がそがれた。命拾いしたな、オプティマス」
しかしメガトロンはオプティマスの上からどき、両腕をもがれ哀れに転がる姿を一瞥した後、トランスフォームして去って行った。
残されたオプティマスは荒く息を付きながら、じっとその姿を見ていた。
遠くから自分を心配する声が聞こえる。オプティマスにはそれが誰の声か分からなかった。


とどめを刺せないのか、刺さないのか。メガトロンは考え、馬鹿馬鹿しいと笑った。





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