Minha Namorada 1
※ジャズがラチェットの治療により復活、バリケードが生存している、というIF設定のお話です。
バリケードがそこに辿り着いた時には、全てが終わっていた。
彼の求めたもの、探し続けていたものは、失われてしまった。
そろりとその場を後にする警察車両を気に留めるものは、誰もいなかった。
バリケードは海を見ていた。当初、何日もそこに停まっているポリスクルーザーを道行く車はあまり気に留めなかった。気付いたところで警察とは下手な係わりをなど持ちたくないだろう。だからバリケードは誰にも邪魔されることなく、そこに居る事ができた。
それでも人の好奇心とは抑えられないものだ。何時となく、その車は人々の気を引くようになった。しかし未だ、その真相を知るものはいない。
求めたものはこの海の底に沈んでいる。同胞、と呼べる者達もまた、同じく。ただひとり、自分と同じように生き残った者を知っているが、彼はもう自由の身だ。叶った念願を喜びこそすれ、他の感情など持たないだろう。そして、この星は彼にとって最早無意味なものだろう。彼にとってもまた、求めたものは失われたのだから。
今頃はあらゆる宙域に散らばった同胞を集め、高らかに偉大な指導者の死を叫んでいるだろう。
全く馬鹿馬鹿しいことだった。しかしバリケードは今ではそれが羨ましい。今の己の状態は一体何なのだろうか。バリケードは自分が何をすべきか迷っていた。
あの時、死を覚悟してただひとり挑むべきだったのか。その死に怒り狂い、少しでも多くの道連れを求めて、飛び込むべきだったのだろうか。
何故、あの時自分は誰にも気付かれないようにその場から離れたのか。そう。まるで逃げるように。
生きたところで、この様だ。目的を失い、惨めに彷徨っている。日に増し、怒りよりも戸惑いの方が大きくなってくる。バリケードは知った。いかに己があの存在に依存していたのかを。知ったところでもう遅い。全ては失われ、バリケードに出来るのは、そんな己を嘲笑うことぐらいだった。
バリケードは海を見ていた。何日も、何日も、ずっとそこに彼は佇んでいる。その姿はまるで何かを待っているかのようにも見えた。
バンブルビーはサムとその恋人ミカエラを乗せ、海岸線を走っていた。ご機嫌な音楽に乗せ、軽快に黄色いカマロは走る。車内では三人でおしゃべりを楽しみ、移り行くパノラマが二人の目を喜ばせていた。
「そういえば、サム。こういう話を聞いたことある?」
その話を切り出したのはミカエラだった。彼女はこんな話が学校で流れているのだと、楽しそうに話し出した。
「この先のね、道路を少し離れたところにずっとポリスカーが停まっているのですって。それが何日もそこにいて、皆が一体何の事件があったのか、って噂しているわ」
「ポリスカー?知らないなぁ」
サムはその話を聞いて少し嫌なことを思い出した。あんな恐ろしいこと、簡単には忘れなれない。
そんなサムの気持ちを察したのか、ミカエラは小さく肩を竦め、ごめんね、と謝ったのだった。
「いや!ミカエラが謝ることじゃないよ!・・・でもなんか変な話だね。一台だけなの?」
「ええ、そうよ。一台、同じ車がずっとそこにあるのですって。きっとそろそろ誰かが声をかけるんじゃないかしら」
『ねえ、ミカエラ』
「なに?」
音楽が止まった。サムとミカエラは顔を見合わせた。
『その車の車種とかわかる?』
「さあ・・・そこまではちょっと。車体の色が黒だってことぐらいかしら」
『黒』
「ええ。やけに綺麗だそうよ。遠目にだけれども、日に映えるらしいわ」
『その場所ってもうすぐ?』
「ええ、そうよ。後、そうね、5キロも無いんじゃないかしら」
『そう・・・ちょっとごめん』
バンブルビーはそう言うと、スピードを落としながら路肩に寄った。ゆっくりと停車する。
サムとミカエラは再び顔を見合わせた。。
「どうしたのかしら」
「さあ?」
思わず小声になったのは仕方が無いことだろう。
「ビー。どうしたんだい?」
『サム。どうしよう』
「ビー?」
ひどく戸惑った声だ。機械生命体だからと言って彼らの声は決して平坦ではない。人間と同じように驚くほど豊かに感情を示す。それは自分達に合わせてくれているだけなのかもしれなかったが、サムは純粋にそのことを歓迎していた。ミカエラもだ。
『それ、きっとバリケードだよ』
「・・・え?」
バリケード。あの恐ろしいエセ警察だ。サムのことを散々追い回してくれた。お陰でサムは未だにポリスカーを見ると、挙動不審になってしまう。犯罪者じゃないのに、だ。
『あいつ、生きているはずなんだ。誰も倒してないって言うし』
そういえば、誰かがそう言っていた気がする。連中の死骸を遺棄する時だったか。サムは思った。あの時は本当に色々あって、もう頭はパンク寸前だったから、聞き流していたのだろう。よく覚えていたものだ、と思い、そしてどうせなら思い出すことになどなって欲しくなかった、と頭を抱えた。
そんなサムの手をそっとミカエラが握った。サムは少しだけ力を込めて握り返した。
「でも・・・こんな近くに?」
貴方達がいるのに、分からないはずは無いのでは、とミカエラが疑問を口にする。
『ビークルモードだとよっぽど近くにいかないと分からないんだ。特にトランスフォーマーとしての機能を切っていると、それこそすれ違っても分からない。お陰でおいらはなんとかやっていけたんだけどね』
流石に潜入時は機能を切る訳にはいかなかったので、かなりの確立で見つかって追い掛け回されたが。バンブルビーは過去を思い出し、少し嫌な気分になった。
「バリケードってあの、あの時のでしょ?」
「そうだよ」
「機能を切るっていうけど、それって危険なことなのよね?」
『うん。性能が普通の車くらいにまで落ちるよ』
「そんなことするかしら?」
ミカエラの疑問は最もだ。そんな危険をあのバリケードが冒すだろうか。いや、する訳がない。バンブルビーは思った。その時は、確実に罠だ。
「ああ。そうか。だから止まったのね」
『うん。今、索敵センサーをかけたんだけど反応は無かった。他のも試してみたけど、やっぱり引っかからない。それがバリケードじゃないか、それとも機能を切っているか、どっちかだ。違うかったら良いんだけど、でもおいら・・・』
バリケードだと思う。バンブルビーは何故かそう確信していた。全く何の根拠も、証拠も無いのにだ。こういうのをなんと言うのだろうか。バンブルビーは合う言葉をWWWで検索した。勘?虫の知らせ?
「どうする?」
「このまま私達だけで行くか、誰か呼ぶか、じゃないかしら」
「ビー、どうする?」
『・・・報告してみるよ。全く確かな情報も無いから、恥ずかしいけど、そんなこと言っている場合じゃないしね。ちょっと待ってて。もしかしたら戻ることになるかもしれないけど、ごめん』
「気にしないで。ねえ、サム」
「うん。また来よう」
『ラチェットとジャズがこっちに向かうって。それまで待機していて欲しいって言われたけど、大丈夫かな?』
「良いよ」
「そんな何十時間も掛からないでしょ?」
『うん。飛ばして行くから、2時間も掛からないだろうって』
再び、車内に音楽が流れ出した。退屈しなようにと、きっとバンブルビーが気を配ったのだろう。サムとミカエラは顔を見合わせ笑った。
「ラチェットが来るんだったら、きっと早いわね」
「だからラチェットか!」
「便利よね、こういう時」
不安は確かにあるけれど、とりあえず三人はしばらくそれを忘れ、会話を楽しむことにしたのだった。
バンブルビーのセンサーに映る5キロ先の反応は微動だにしない。
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