Minha Namorada 2
※ジャズがラチェットの治療により復活、バリケードが生存している、というIF設定のお話です。
ラチェットとジャズは2時間と掛からずにバンブルビーの元へとやって来た。交通量の多くは無い道路だ。緊急用のサイレンは鳴っていなかった。
路肩に寄ったスポーツカー二台と、救急車両は当然のことながらひどく人目を引いた。しかし、その組み合わせの奇妙さ故に、近づこうとするものはいない。
しばらくして、その三台は動き出した。先頭は銀色が美しいポンティアック・ソルスティスだ。スピードは出さず、慎重に進む。何台もの車が彼らを追い抜いてゆく。
目的の反応はやはり何の動きもみせない。
サムとミカエラは車内に映し出されたホログラムをじっと見ていた。車外の景色を楽しむ余裕などはない。ピックアップされた反応との距離が見る間に縮まってゆく。バンブルビーあれからは黙ったままだった。
二人の乗るカマロは最後尾を走っている。いざとなったら、真っ先に逃げ、二人の安全を確保する為だった。
バンブルビーには悪いことをしたかも。サムはそう思った。彼はバリケードと因縁浅からぬ仲らしい。どうせなら自分が決着をと考えているのではないか、そうサムはバンブルビーのバリケードに関する話を聞いて思っていた。全く勝手な憶測に過ぎないが、それなりに的を射ているとサムは思うのだ。
どうしようもない事とはいえ、足手まといになってしまっている、という気持ちを拭い去れない。皆に言ったなら、きっと笑い飛ばされるだろうから、サムは口に出すことはなかったが。
サムはずっと握ったままだったミカエラの手を、確かめるように握りなおした。少し汗ばんでいる。ミカエラもまた、握り返した。同時にカマロがゆるやかに停車した。レスキュー車もカマロの少し前で停まった。銀のスポーツカーだけが、先を走っていくのがフロントガラス越しに見えた。気が付けば、件のポリスカーが小さいながらも目視出来る距離だった。
「ジャズが行くの?」
ミカエラが沈黙を破った。声を抑える必要は無いのだが、彼女は囁くように呟いた。
「みたいだね」
『・・・連絡を入れた時から、ずっと俺が行くって言ってたって』
「そう、なの?」
『うん。本当はラチェットとアイアンハイドがって話になったんだけど、ジャズが俺が行くって譲らなかったって。本調子じゃないし、何があるか分からないからって止めても聞かなくて、ほとんど飛び出して来たみたい』
「あの?」
「ジャズが?」
サムとミカエラは驚いた声が出るのを止められなかった。顔を見合わせ、首を捻る。
「だって、ねぇ、あのジャズが、まさか、そんな・・・」
ミカエラの言葉は最もだ。バンブルビーもそれをラチェットから聞いた時、心底驚いた。あの、ジャズが。それに尽きるではないか。
「なあ。ビー」
『なんだい、サム』
「その、ジャズとバリケードってそんな・・・なんていうかな、因縁、みたいなのあったのかい?」
例えば、君とのような。決着は自分が、みたいな。サムが言いにくそうにそう続ける。
バンブルビーはその通りなのだから、どうしてそんな申し訳なさそうな顔としゃべり方をするのか分からなかったが、それは今聞くべき事じゃないと思い、ただ質問に答えることにした。
『無い、と思うよ。ジャズがバリケードだけを特に意識していたっていう記録は無いし・・・。だから、おいらには分からない』
ジャズのディセプティコンに対する態度は何時も、誰にだって同じだった。むかつくディセップ野郎、そう彼は拳を震わせ息巻いていた。
だけど。バンブルビーは言葉を続けた。
『時々、おいらじゃなくて、ジャズが斥候で出る時があったんだ。その時にバリケードと接触して何かあったのかもしてない。そういうことだと詳しく何があったかとか、おいらには分からないから』
もしかしてその時に何かあって、ジャズは密かにバリケードに何か特別な感情を抱いていたのかもしれない。勿論、それは怒りや憎しみと言ったあまりよろしくは無いものだろう。
「なるほど」
サムは確かにそういうことなら、と納得をした。
「そう・・・なのかしら」
しかしミカエラはどこか納得いかない様子を見せた。首を捻り、小さく唸る。
「ミカエラ?」
「なんか、ちょっと違う気がするのよ」
『どんな風に?』
「上手く言えないの。ごめんなさい。でも、憎しみや怒りでジャズがそんな行動を取るとは思えないのよ。貴方達の方が付き合いが長いのは分かっているから、余計なことだとは思うのだけど」
『うーん・・・』
「女の勘ってやつかい?」
「かもね」
三人でうーんと唸った。バンブルビーは首を傾げることは出来ないが、彼が人間の姿だったらきっと三人で頭を付き合わせて首を捻り唸っていることだろう。
『ラチェット。ビー』
そんな時だ。ジャズから通信が入った。サムとミカエラを考慮してか、それは音声通信だった。
『ジャズ』
バンブルビーが答える。サムとミカエラは聞き耳と立てるように押し黙った。
『ビンゴだ。話は付いた。とりあえず基地へ帰ろうぜ』
『ちょっ!ちょっと待ってよ、ジャズ。話は付いたってどういう事だよ!?』
『落ち着け、ビー。簡単に順を追って話すぞ。例のポリスカーはやっぱりバリケードで、奴に抵抗の意思は無い。・・・今のところな。こんなところで話もなんだから、ご一緒してもらう。どっちにしてもディセプティコンを放っておく訳にはいかないだろう』
『・・・でも』
『そうだな』
それまで黙っていたラチェットがジャズに同意を示した。
『ラチェットまで・・・』
『バンブルビー。とりあえず奴が大人しくしているなら、この場を早々に離れるべきだ。例え罠だろうがな』
バンブルビーは辺りを見渡した。サムもミカエラも車外に目を向ける。今まではそれなりの速度で走っていたはずの車の流れが明らかに緩くなっていた。停車するものはいないが、それも時間の問題だろう。自分達は目立ちすぎている。三人はその事実を今更ながらに思い知った。
『分かったよ』
仕方が無いと、バンブルビーはしぶしぶ肯定の意をジャズに伝えた。
『俺が先頭を行くから、ラチェットはバリケードの後を頼む。ビーは最後にな』
何かあったら逃げろ。そうジャズは閉鎖回線でバンブルビーに伝えた。大丈夫だよ、バンブルビーは同じようにそう答えた。
銀のスポーツカーと、黒のポリスクルーザーが動き出した。それはすぐにカマロの隣を走り抜けていった。小さな溜め息と共に、カマロはレスキュー車に続いて走り出すのだった。
どうなるのだろう。不安がバンブルビーの感情回路を支配していた。
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