Minha Namorada 4
※ジャズがラチェットの治療により復活、バリケードが生存している、というIF設定のお話です





「貴様に言われる筋合いはない」
皆の注目の中、バリケードが静かに言った。握られた手は無理に振り払おうとはせず、軽く引いた。ジャズはあっさりと離し、ゆるい拘束はすぐにほどけた。
「すぐに取り掛かれるのか」
誰も視界に入れず、問う。誰も存在しない場所をバリケードはじっと見つめていた。
「まずは検査をさせてもらう。処置はその後になるな」
答えたのはラチェットで、彼は今日はもう遅いので明日取り掛かると言い、サムとミカエラに視線を向けた。
「お前さん達、そろそろ帰らないと拙いんじゃないか?」
その言葉に二人は顔を見合わせた。
「あ・・・明日学校だわ」
「やばいっ!課題が・・・今、何時だよっ!」
サムは慌ててかばんを探る。中身の乱雑さと、焦りから、中々お目当てのものを探り出すことが出来なかった。
「9時過ぎだよ、サム」
バンブルビーが助け舟を出した。門限まで後2時間。
「もうそんな時間なのかよ!?」
「門限大丈夫なの?サム」
男性のサムが女性のミカエラに門限の心配をされるのもおかしな話だ。しかしサムには変なところで口うるさい母親がいて、ミカエラの母親はそういうことに口出ししないので、仕方が無いことだった。
「あ、それは大丈夫。ここに居るっていうのが分かれば、門限は大目に見てくれるから。あ、オプティマス、ママに連絡しておいてもらえるかな?」
「お安い御用だとも、サム。・・・良かったら私が送っていこう」
オプティマスが屈み込んで二人と目線を合わせる。別にそんなことしなくても良いと言っても、彼は可能ならば必ずそうしてくれるのだった。

サムは返答に詰まった。これは受けるべきなのだろうか。明らかに彼らは込み入っている。邪魔をしないように、ミカエラと二人、車を借りて帰るつもりだった。バンブルビーもここに残りたがるだろうと、そう思って。
やっぱり悪いから断ろう。そうサムが決め、口を開こうとした時、別の声が割って入った。

「茶番に付き合うつもりはない。俺はどこへ行けばいい。まさかここにずっと居ろという訳でもないだろう。牢でもなんでも良いからさっさと連れていけ」
バリケードだ。相変わらず皆に背を向けたまま、彼は苛立ちを隠さずに言った。
本人の言葉を借りるなら、彼は捕虜の立場のようなものだろう。なのになんだ、この態度のでかさと落ち着きは。サムはそのちぐはぐさに少し笑った。先ほどまでの少しばかりしおらしげな態度はやはり演技か何かなのだろう。バンブルビーは言っていた。バリケードは欺瞞の民をも欺く虚偽の塊なのだと。

「ああ、そうだな。空いている部屋があったはずだ。我々の為の空間だ。窮屈さは無いだろう」
オプティマスがしゃがんだまま、答えた。
「こっちだ」
サムとミカエラは、オプティマスの顔越しに、銀と黒の機体が歩き出したのを見た。

「大丈夫なの?」
「ああ。大丈夫だ」
「随分と信用しているのね?」
彼は敵で、今だって決して味方とは言えないはずだった。
「我々が信用し、信頼しているのはジャズだ。ミカエラ」
ラチェットが答える。
「バリケードではない」
オプティマスが頷いた。
「あいつの話が本当かどうかは分からん。だがこの場であんなことを言い出したのだ。言っている本人も良い気分ではなかっただろうに、だ。我々はそれを信じるのだ」
アイアンハイドが続けた。
あいつ、とはジャズのことか。サムは思った。彼が言い出したこと。確かに突拍子も無いことだった。あそこで言う必要性はあったのかと問われると、サムは首を傾げてしまう。
「惚れている、と言ったことね?」
「ああ」
「本当なのかしら」
「さあな。どちらにしろ、あの言葉は我々から、奴を即処分するという選択肢を消した。バリケード自身からもだ。そして少しばかりの猶予を生み出した。・・・混乱、と共にな」
「受け入れるの?」
「彼がそう望むのならば」
「そう」
ミカエラが納得した顔で頷いた。サムには良く分からなかったが、ジャズのあの言葉は色々な意味を含んでいたのだということは理解出来た。そして彼らが本当に敵対者であったものを受け入れるつもりでいることも。

「さあ、行こう」
オプティマスが立ち上がる。サムは断るつもりだったことを思い出し、慌てて口を開こうとしたが、またしても別の声に割って入られた。
「オプティマス。おいらが行くよ」
「バンブルビー」
「朝送っていかないといけないしね」
さあ、帰ろう、サム。バンブルビーの雄弁な瞳がそう言っていた。それを見て、サムは彼も自分と同じように少しばかり居心地が悪かったのだろうか、と思った。
「うん。オプティマス。俺達、ビーと一緒に帰るよ。ありがとう。連絡よろしく」
だからそう答えた。その言葉を聞いたバンブルビーがカマロにトランスフォームする。サムはミカエラと二人乗り込んだ。
「気をつけてな。・・・頼んだ」
オプティマスのその言葉は、誰に向けられたものかは分からなかったが、サムはドアを閉める前に、彼に向かって頷いたのだった。



「ビー。良かったのかい?」
帰路を行くカマロの車内でサムは尋ねた。
『うん。・・・正直に言うとね、ちょっと助かったかも』
「辛かったの?」
ミカエラの声はやさしい。そっと労わるような声だった。
『辛い、って訳じゃないと思う。なんていうか、上手に思考回路が働かなかった。おいら、バリケードは大嫌いだけど、でも、受け入れられない訳じゃないんだ。今までだってそういうのは一杯あったし。オートボットに帰順するディセプティコンもいた。・・・逆もあったけど』
「そう・・・」
「じゃあ、やっぱりジャズのことなのね?」
『・・・うん。なんかジャズらしくなかった。あんなこと言うなんて・・・。ジャズのことなんでも分かっている訳じゃないけど、あんなジャズは見たことない』
「本当に惚れてたのかなぁ」
「さあ、どうかしらね。でも・・・もう私達があれこれ言っても埒があかないわ。それだけは確かね。ビー」
『なに?』
「気が済むまでサムの家に居なさいね。ね、サム」
「えっ?あ、うん。勿論だよ。どうせ俺達は週末まで行けそうにないし」
なんとなく、オプティマス達もそれを望んでいるような気がする。サムは思った。それは決してのけものにしようというものではなく、バンブルビーへの愛情から来るものだろう。
『・・・うん。ありがとう』
「さあ、帰ろう。あああ・・・課題がやばい」
「まだやってなかったのね。あの課題、結構難しいわよ」
「終わったの?」
「かなり前から出てたでしょ」
「あとちょっとなんだよ!あとちょっとのところで置いてたら、なんか気付いたら、明日提出・・・だった」
「まあ、あとちょっとなら、頑張ってちょーだい」
「はぁ」
『大変だ』
「ビー。自業自得だから気にしなくて良いわよ」
「・・・そうです」
ミカエラは笑った。バンブルビーも笑った。情けない声を出しながら、サムも笑った。数時間ぶりにカマロの中に笑いと話し声が戻った。





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